「先生と迷い猫」のワンシーン (C)2015「先生と迷い猫」製作委員会
妻に先立たれた偏屈な元校長先生を主人公に、地域猫が結ぶ人と人の触れ合いを描いた「先生と迷い猫」(深川栄洋監督)が10日から公開される。木附千晶さんが書いたノンフィクション作「迷子のミーちゃん~地域猫と商店街再生のものがたり」(扶桑社)が原案。ある日、突然いなくなった猫を町の人たちと探し回る元校長先生をイッセー尾形さんが味わい深く演じている。
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森衣恭一(イッセー尾形さん)は、妻(もたいまさこさん)に先立たれて一人暮らし。趣味はカメラで、近所では偏屈で有名だ。校長先生を定年退職した今は、家でロシア文学の翻訳にいそしむ。やって来るのは、元教え子で役所勤務の小鹿(染谷将太さん)と、妻が可愛がっていた三毛猫のミイ(ドロップちゃん)だけ。でも、校長先生はミイを歓迎していなかった。ミイは、地域の人たちから名づけられ、可愛がられている地域猫だった。ある日、ミイの姿が町から消えた。恭一は妻の行きつけだった美容院の容子(岸本加世子さん)が同じ猫を探しているのを知り、協力を申し出る……というストーリー。
人は無くしてから大事なものに気づく。校長先生もそうだった。妻の好きなパン、妻のお気に入りのカーテン……亡くなった妻がそこかしこに存在する一軒家で一人暮らしをしている姿を見ていると、先生がどんなに寂しいかがよく分かる。先生が、猫のミイを歓迎しないのもムリはない。ミイほど、妻の不在を強く感じさせる存在はないからだ。外ではふんぞり返って歩いている先生も、イッセー尾形さんが演じることでなんだか可愛らしい。だからこそ、この世渡りべたの変人を応援したくなる。校長先生は、猫のミイをカメラに収めるほど接触するようになったが、ミイは姿をくらましてしまう。このこつ然と消えた感じが、映画の肝だとも思える。観客は、地域の人たちとつながっていく校長先生を温かく見守りながら、一緒に猫探しに加わった気分にさせられるだろう。えさやりの問題、処分される猫たち、さまざまな問題もあぶり出される。自由奔放に動き回るミイを演じる女優猫のドロップちゃんは、1匹でこの役を演じ切ったという。ふてぶてしさや可愛らしさ、気ままな寝姿を披露し、「猫たるものはこうでなくちゃ」と大いに猫好きを楽しませてくれる。「神様のカルテ」(2011年)など、命をテーマにした映画を描くことに長けている深川監督らしい作品となった。新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで10日から公開。(文・キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。取材で抱っこさせてもらったドロップちゃんは、フワフワで可愛かったです。
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