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俳優の中村倫也さんが主演を務める映画「星ガ丘ワンダーランド」(柳沢翔監督)が5日に公開された。CMクリエーターとして活躍する柳沢監督の初の映画監督作品で、幼い頃に母が突然姿を消したという過去を持つ駅の「落とし物預り所」で働く青年が、母の訃報をきっかけに義理の姉弟の存在を知り、人生が変わっていく様子を描いている。主人公の瀬生温人を演じる中村さんと、温人の母の再婚相手の娘である清川七海を演じる佐々木希さんに話を聞いた。
◇「余白の美のような潔さが好き」(中村)
脚本を読んだときの印象を、「登場人物みんな葛藤というか、コンプレックスや笑うこと泣くこと、悔しいことなどいろんなことが混ざり合っていて、キャラクターがそれぞれ“生身感”というか、人を人として美化せず描いている感じにとても共感しました」と中村さんは語り、「母の死という大きな話ですが、ささやかに生きている人間のささやかな成長の軌跡のポートレートという一面もある。人の持つドラマ性をドラマとして提示しないというか、書道でいう余白の美のような潔さが好き」と今作への思いを明かす。
一方、佐々木さんは「私が演じている七海は血がつながっていないだけでずっといろんな葛藤をしてきて、自分の思いとかも全然出せずにけなげに頑張っている女性で、脚本を見て七海というキャラクターを早くやりたいと思いました」と振り返り、「すごく難しい役だと感じましたが、早く演じてみたいという気持ちにはなりました」という。聞いていた中村さんも「早く撮影に入りたいと思った」と言ってうなずく。
◇若いスタッフが多い現場に「こういう時代がきた」(佐々木)
今作はCMクリエーターとして著名な柳沢監督が映画に初挑戦した作品だが、監督の印象を「口べたです(笑い)」と中村さん。続けて「持っている面白い発想や言葉で説明し切れない感覚的なことを心象風景として(監督自身が描いた)絵で伝えるというのは、監督のオリジナリティーというか特別な能力だと思います」と表現し、「映画に対する愛情がものすごく深く、いい意味で頑固」と柳沢監督の人物像を話す。
頑固だという理由を、中村さんは「人を説得したりするのはあまり得意ではないようですが、どうしてもうなずけないときは絶対にうなずかない(笑い)」といい、「ものを作る人としてはとても正直で好きですし、変な打算とかではなくピュアに楽しいものを作っているというのは、もの作りをする人間としてとても信頼できます」と柳沢監督を称賛する。
佐々木さんも、中村さんの話にうなずきながら「監督は本当に控えめでおとなしい方ですが、撮影前にいろいろお話しする中でたまに見える熱いものみたいなのが本当にカッコいい」と目を輝かせる。さらに「監督の以前の作品を見たときに、すごく面白いし、映像がきれいだなと思って、そういう方が映画を撮るとどういうふうになるんだろうとすごくワクワクして、早くお仕事したいと思いました」と現場を待ち望んでいたという。
撮影を楽しみにしていたという佐々木さんは、今作の現場を「若い方のエネルギーがとてもある現場でした」と振り返り、「自分より年下のカメラマンさんとかもいて、すごいなと」と驚いたことを明かす。中村さんも「チーフカメラマンだから年上だろうと思っていたら年下だった」と同意し、「(自分より若いスタッフが活躍する)こういう時代が来たなと思いました」と佐々木さんが楽しそうに話すと、あまりに驚いたため中村さんは「なんだてめえと言っちゃいました(笑い)」と冗談っぽくツッコミを入れたことを明かす。
◇互いの共演シーンは“距離感”を意識
中村さんは自身が演じる温人を「温人は波風が立つのを嫌うといいますか、もともと何かをあきらめていたり、秘めたものを秘めたまま見ないようにしている性格」と分析し、演じている間は、「何をうじうじしているんだとずっと思っていた(笑い)」と感じたという。そして、「思っていることがあるなら言えばいいし、人に迷惑をかけて甘えればいいのにと思いながら、ちゃんと人に甘えられるようになるといいと思っていた」と温人に対し思いをはせる。
温人だけでなく弟の雄哉(菅田将暉さん)の2人から異なる怒りをぶつけられる七海について、「とてもけなげな女性で、笑っていても心が笑っていないというか我慢していて、心が泣いているような感じなのかなと」と佐々木さん。続けて、「笑えば笑うほど無理している感じがして、(七海の)今まで生きてきた葛藤とかを考えるとすごく心苦しかった」と演じていたときの心境を明かす。
母の死をきっかけに温人と七海は出会い、次第に互いの事実を知り、心情が変化していく。温人と七海が母の思い出のリンゴスープを語るシーンでは「憎しみにも似た嫉妬(しっと)というか、勝手なものを温人は抱いていて、そこに温人自身しっかりと目を向けていない」と中村さんは温人の心情を語り、「リンゴスープを一口飲むことで刹那(せつな)的な瞬間にいろんなことが変わり、受動から能動に変わる瞬間だと思う」と物語の転機になるシーンの一つであることを説明する。
佐々木さんが「リンゴスープのシーンは近すぎてはだめだし距離感が難しく、そこの微妙な距離というのはすごく感じました」と打ち明けると、中村さんも「リンゴスープを飲んで走り出すまでの細かい機微というものを演じながら大事にしなければと思っていて、デリケートに運ぶ作業が必要でした」と振り返る。
◇役者人生を「笑って死にたい」(中村)
撮影を進めていく中で、柳沢監督からは「極力表現を省いてくれ、引いてくれと言われました」と指示があったことを中村さんは明かし、「そこにあるものを撮りたいのでしょう。役者の表現として親切に提示しているものよりも、むき出しの生の状態を撮りたいというか。そういうことは最初から最後まで言っていました」と説明し、「何色でもない混沌(こんとん)とした色を撮りたいみたいなことだと思います」と監督の考えを代弁する。
「その場に行ってそこに染まりたいと思っている」と現場に対する持論を持つ佐々木さんは、「もちろん、こういうふうにしたらいいかなとかは考えていきますが、監督の言うことや現場の空気に一早くなじむことが大事だというのが、今の考え方」と説明する。そのため、「『こうしてほしい』という指示ではなく、『七海さんはこういう人だと思うんです』みたいな言い方」の柳沢監督とのやり取りが肌に合い、「すごく無理せずというか、感じたままにやらせていただけました」と感謝する。そんな佐々木さんは「これから倫也さんみたいに(演技に対する)技術を培っていいけたらいいなと」と敬意を表する。
中村さんは映画にドラマ、舞台と出演作が途切れることなく続いている現状を「30歳ぐらいで主演舞台、主演映画ができたらいいなとデビューした頃、ぼんやりと思っていたのですが、そう考えると思っていたよりもちょっと早くなっているという感じで、本当にありがたいです」と自己分析。続けて「自分に才能があるとはデビューした頃しか思っていなかったですし、すぐ鼻をへし折られたクチ」と自虐的に切り出し、「出会い運のようなものだけはあると思っていて、いい出会いとか面白がってくれる人や僕が面白いなと思えるすてきな人にいっぱい出会えました」と感謝し、「これから先も一個一個楽しいことをしながら、笑って死ねればいいかなと思います」と力強く語った。映画は全国で公開中。
<中村倫也さんのプロフィル>
1986年12月24日生まれ、東京都出身。2005年公開の映画「七人の弔」でデビューし、以降、ドラマや映画、舞台などで活躍。2014年から15年にかけて、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」、「アオイホノオ」(テレビ東京系)、「ファーストクラス」(フジテレビ系)、「下町ロケット」(TBS系)など話題作に多数出演し注目される。最近の主な映画出演作に、「海月姫」(14年)、「マエストロ!」(15年)、「王妃の館」(15年)、「ピース オブ ケイク」(15年)などがある。16年には出演している映画「日本で一番悪い奴ら」の公開を控える。
<佐々木希さんのプロフィル>
1988年2月8日生まれ、秋田県出身。 2006年に女性ファッション誌「PINKY」(集英社)のオーディションで「プリンセスPINKYグランプリ」を獲得しモデルデビュー。数々の雑誌で表紙を飾り、08年に「ハンサム★スーツ」でスクリーンデビュー、09年には「天使の恋」で映画初主演を果たす。以降、女優として数多くの作品に出演。最近の出演作には、ドラマ「お天気お姉さん」(テレビ朝日系)、「ファースト・クラス」(フジテレビ系)、「黒服物語」(テレビ朝日系)、映画「サンゴレンジャー」(13年)、「呪怨-終わりの始まり-」(14年)、「縁~The Bride of Izumo~」(16年)などがある。16年には出演している映画「カノン」の公開を控える。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)