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主演のブリー・ラーソンさんに今年度の米アカデミー賞主演女優賞をもたらし、トロント国際映画祭で観客賞(最高賞)に輝いた話題作「ルーム ROOM」(レニー・アブラハムソン監督)が、8日から公開される。部屋に監禁された女性と、そこでしか暮らしたことがない子どもを中心に、狭い世界から脱出して外に飛び出した人間の姿を描き出す。天才子役の呼び声も高いジェイコブ・トレンブレイ君にも引きつけられる。
ママのジョイ(ラーソンさん)とジャック(トレンブレイ君)は、狭い部屋の中だけで暮らしていた。今日はジャックの5歳の誕生日。ママはケーキを焼いてくれ、ジャックはロウソクがないと言ってすねる。部屋には天窓しかなく、外には出られない。親子は監禁されていて、夜中にときどきやって来るオールド・ニック(ショーン・ブリジャースさん)という男が、食糧などを置いて行くだけだ。だが届けられる物資は足りなく、電気が切られた部屋で寒さに耐えることもある。部屋からジャックを脱出させたいと思ったジョイは、ジャックに監禁の事実を伝え、死んだふりをさせる作戦をとる……という展開。
母子が部屋に監禁されている。だが、これは事件やサスペンスを扱ったものではない。監禁の理由を探ったり、物語を追って見ていくものとも違うようだ。子どもであるジャックは、監禁されているとは知らずに、この世界だけで生きている。手作りのオモチャや洗面台にもあいさつするほど部屋のすべてをいつくしむジャックは、母親に守られているという点では幸せな子どもだ。しかし外にある「リアル(現実)」を知らないでいる。母親のジョイは野性味のある激しさで子どもを守り、だからこそ、部屋から我が子を解き放つ決心もする。どんな子どもも、いつまでも母親の手だけでは守りきることはできない。ごちゃごちゃとした監禁部屋と違って、脱出後の世界は、真っ白で広い世界。このビジュアルの落差が絶妙だ。ジャックにとって、祖父母を含めて、他者との初めての関わりがスタートする。
線が細くお人形さんのようだったジャックが、次第に男の子らしく変わっていくのと同時に、母親は内側に閉じていく。母親の胸に去来する「それが最良だったのか?」という問いかけに、子育ての不安、リアルさが垣間見える。子にとっては、母親の胎内から外へ、そして、人とつながる外界へ。母親にとっては、少しずつ子離れするということ。幼児が世界を広げていく過程、そして、母ゆえの葛藤と理屈抜きの感情を体験させられる。殻を破って外に出て、リアルな世界に五感で触れることの大切さも伝わってくる。原作「部屋(上・下)」の著者であるエマ・ドナヒューさんが、脚本も手がけた。TOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほかで8日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今作、常に何かを乗り越えることが子育てなんだなあと思わせる。