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「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002年)などで知られるマイケル・ムーア監督が“侵略者”となって世界を旅する「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」が、27日から公開される。労働環境、学校給食、刑務所などを見て回り、その国の常識となっているいいところをムーア監督が略奪するという内容で、見ている方も“目からうろこ”の驚きでいっぱいになる。
米国はこれまで侵略戦争を繰り返してきた。政府の天敵だったはずのムーア監督に、国防総省の幹部が相談を持ちかける。それは、ムーア監督が“侵略者”となって世界各国へ出動するというもの。まず、イタリアで1年間の休暇が8週間だと知らされ驚き、さらに、フランスの小学校で高級レストラン並みの給食を児童と一緒に食べる。死刑制度のないノルウェーの刑務所を訪れ、服役中の囚人と自由に会話を交わすなど、自国にはない他国の常識を“略奪”していく……という展開。
銃社会、イラク戦争、医療制度など、自国の問題に切り込んできたムーア監督が、海外に飛び出して何をするやらと思っていると、いつもよりも柔和な表情で取材もなんだか旅気分の様相。他国の「いいところ」を乗っ取りながら、米国の社会に足りないものについて語るというアイデアが面白い。世界9カ国で紹介される常識は、日本でも驚くべきものばかり。有給休暇の多いイタリアや宿題がないのに世界での学力1位のフィンランド、囚人が一軒家の刑務所に住むノルウェーなどで、アポありの取材を展開していく。フランスの小学生に米国の給食を「キモいソース」と言われたり、アイスランドのご婦人には「米国になんて住みたくない」と言われたり。ムーア監督が「!!」となる表情がユーモラスだ。
紹介する国の順番も絶妙だ。ノルウェーのオスロで起きた爆破事件の遺族が後半になって登場し、映画が進むに従い、社会的な背景の濃いエピソードが重なっていく。復讐(ふくしゅう)を望まない心や、女性の視点を大事にすることに行きつきながら、いつしかお金よりも大事なものに気づかされる。「なぜ米国でできないのか」「元は米国のアイデアじゃないか」と一人ごちるムーア監督からは、いつものように自国への愛が伝わってくる。かくいう日本も、戦後どんな社会を目指してきたのだろうか。労働と教育の環境整備がどれほど大切か。人にとって何が幸せなのか。一緒になって立ち止まって考えさせられる。TOHOシネマズみゆき座(東京都千代田区)ほかで27日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。フランスの給食が食べたくなりました。