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篠原涼子:新春インタビュー・中 「引き出しをいっぱい開けられ…」女優として一段高みへ

 女優の篠原涼子さん主演のスペシャルドラマ「愛を乞うひと」(読売テレビ・日本テレビ系)が11日午後9時から放送される。下田治美さんの原作小説を原田美枝子さん主演で平山秀幸監督が映画化(1998年)した作品を見てこの役を演じてみたいと思っていたという篠原さん。今回は母に虐待されていた過去を持つ照恵と虐待していた母・豊子の1人2役を演じている。なぜこの作品に引かれたのか、また撮影のエピソードや役に懸ける思いを聞いた。

 ◇「愛を乞うひと」とは…

 ドラマは、早くに夫を亡くし、娘の深草(広瀬アリスさん)と2人で暮らしている照恵(篠原さん)にある日、生き別れた弟の武則(ムロツヨシさん)が逮捕されたと警察から連絡が入る……。照恵は弟との面会をきっかけに数十年の間、記憶の奥底に押し込めていた母からの虐待を受けた幼少時代を思い出し、娘に語り始める……というストーリー。主題歌は中島美嘉さんが歌う「Alone」が採用されている。

 ◇映画を見て衝撃を受けた

 今作では母から虐待を受けた女性の人生を描いているが、なぜこの物語に篠原さんは引かれたのだろうか。「以前(映画を)拝見したときは虐待を映像化したことに衝撃を受けました。また、その虐待の内容にもびっくりして、それを原田美枝子さんが抜群の演技で演じている姿を見て、いますぐは無理だけど、いつか自分も挑戦してみたいなという気持ちになりました。また、本当にこういう虐待をされている子がいるのか、いちゃいけないと思ったので、(映像化で広く知られることで)救える形が何かないかなと思ったこともありましたね。43歳になって挑戦できて、すごく学ばせていただくことたくさんありましたし、とてもいい経験をさせていただきました」と思いをはせる。

 ◇正反対の性格の役を1人2役で演じ…

 1人2役、正反対の役だが、「豊子というお母さんの方、虐待をする役がものすごく衝撃的なキャラクターで、本当にこんな人がいるのかなと思いながら演じていました。演じながら、子役の子が逃げる場もなく悲しい気持ちになっているときに、こんなことをやる親は本当にいるのかと不思議な気持ちになりながらも、豊子に乗り移って演じました。ただ、虐待も理由があるからやる、そのへんをしっかり描いていけたらいいなと思いながらやらせていただきました」と説明する。

 照恵の方は「幼少時代に虐待に遭っている人なので、(その)話ができなくなっている。本当に思っていることなど自分を表現できない。すごく難しい女性を演じました。先に豊子を撮っていたので、やりたい放題、大きな声で怒鳴ったり、身ぶり手ぶりで暴行したりしていたので、照恵は引っ込み思案な性格で、やっていて物足りないなという気持ちになっちゃいましたね」とコントラストのある役を演じるのに苦労した。

 ◇台湾ロケは往復6時間の車移動

 昨年夏、台湾でロケをした。「阿里山という場所がありまして、そこは茶畑が有名なところなんですけれども、そこが舞台なので、そこまで行ってロケをしました」といい、「結構山奥で、(宿から)片道3時間くらい平気でかかる場所で。(車で)往復6時間。(車内では)寝てました。ほぼ寝るしかないという状況に陥っちゃって。でも寝たいんですけれど、寝られない、山道なので(揺れて)シートがすべって、おしりがどんどん下がってしまって。なんでこんな思いをして寝るんだっていう……」と苦笑しながら明かす。

 ただ、撮影期間に誕生日があり、「私にサプライズで突然花火をバーンって上げてくださった。現場で撮影が終わったあと、いきなり本格的な花火がたくさん上がって、すごくびっくりしたけれど、キレイでうれしかった。本格的すぎて火の粉が落ちてきました(笑い)。でもすごくうれしかったです」とうれしいサプライズもあった。

 また、ロケ弁が台湾特有の味付けだった。「毎日、八角の味で、(後半は)だいぶ嫌になってきていたんですけれども、東京に帰ってきたら今度は八角が食べたくなって。あの味はやっぱり病みつきになるのかなって。ちゃんとした食事としての台湾料理は食べてない。東京に帰ってきてから、このドラマの打ち上げが台湾料理でした」と明かした。

 ◇娘役の広瀬アリスと「話が合う」

 照恵の娘、深草役は広瀬さんが演じた。台湾ロケでもずっと一緒だったという。「深草の立ち位置は照恵にとっての救いなので、それをうまく彼女が演じてくださった。すごくかわいらしいけれどもボーイッシュに演じ上げてくださったので、そういう意味で自然の親子という感じに見えていてるんじゃないかなと思います。照恵は母親としてはものすごく弱い人として生きて来てしまっているので、娘の方が親みたいな、お姉さんのような逆の感じで。そういうふうに演じてくださったので、助かっていました」と息もぴったりだった。

 広瀬さんと親子として共演シーンも多く、「(広瀬さんは)結構ボーイッシュなタイプでさばさばしていましたね。私もさばさばしている方なので、すごく話が合うというか。話していて楽しかった。年はすごく離れているんですけれど私に合わせてくれたり、大人な感じがしました。親子なんだけれどお友達のような感覚で会話ができましたね」とウマも合った。

 ◇上川隆也「大地の子」が返ってきた?

 豊子の最初の夫、陳文英を演じた上川隆也さんは「『大地の子』の感じが返ってきたなと(笑い)。私は『大地の子』が大好きだったので、ああ生で見られている……という感じでした(笑い)。今回の役も、上川さんにしかできないと思わせてくれ、本当にいいキャラクターにしてくださった。私も豊子をやっていて、やりがいがありましたね。『こういう(文英のような)静かな人にバンバン(ぶつかっていって)好きになってください』と監督が言うので、甘えて、グワーッとやることによって、冷静でいる上川さんがものすごく偉大に見えて、こちらはきゃっきゃしている子猫のように見えるという。20年ぶりぐらいに一緒にお仕事をさせていただいて。『20年ぶりなのにこんな役でごめんなさいね』って言っておきました。中打ち上げがあったので『私はこんなんじゃないです』と直接伝えました」と絶賛する。

 ◇子役の鈴木梨央は「天才」

 虐待される照恵の子供時代を演じた鈴木梨央さん(11)に対しては「天才。あの年齢でなぜここまで理解者なんだという。自分が小さいときはこんなんじゃなかったなと。本当にしっかりされていて、現場の空気も盗んじゃう(読める)し、スタッフにも気を使う。たぶん中身は子供の着ぐるみを着た大人なんじゃないかなと思うくらい(笑い)。だけど、ケータリングで焼き肉をやったときに初めて子供っぽさを見ました。『ああ、お肉だ!』ってパーッと走っていって、パッと食べてました。それを見たときに『よかった、子供だ、子供だ。うちの息子とも遊べそうだ』と安心しました。それくらいすごい人だなと思いました」と絶賛する。

 虐待をするシーンの撮影の際は「ごめんね、平気?ってもちろん心の中で思いながら演じてましたけれど、彼女もものすごくプロなので、気持ちが萎(な)えるんじゃないかなと思ってあえてそういうことはしなかった。しいていうなら、ちょっと風邪を引いてしまってのどを壊して、でも頑張っているときがあったので、あめとかを差し入れしたり。プロなので、言葉では掛けないように心がけていました。声を掛けると虐待をするときのときの気持ちの入り方が違くなる。でも、最初にリハーサルしたんだけど、そのときは『本当にごめんね。(私は)そんな人間じゃないんだよ』というふうには伝えておきました(笑い)」と距離を測って演じた。

 ◇虐待されても母への愛情は強い

 虐待される照恵の気持ちについて、篠原さんは「多分、豊子のことを最後の最後まで憎んでいたんだと思うんですね。でも、お母さんのことを好きで好きでしょうがないんですよ。『お母さん、お母さん』と抱きしめて。幼少時代の照恵が豊子に対してギュッとやるシーンがあるんですよ。それを見るとどんなに虐待に見えようが愛されていないようなニュアンスを出されていようが、母親とは血がつながっているし、母に対しての思いというのはものすごく愛情として強いんだなと思いました。それを分かっている照恵だからこそ、大人になったときにもう一度会ってみたいとなってしまうのではないかと思うし。葛藤と愛とのはざまだったんだろうなと。けれども、やっぱり愛は勝つというか」と表現する。  そして、「オーラス(最後)の照恵と豊子のシーンはちゃんと見ていただきたいと思います。ものすごく切ないです」とアピールする。

 ◇自分では気づかない発見がいっぱいあった

 このドラマに出演して「虐待する豊子というキャラクターを私は10年前から本当にやりたくって、やってみたらものすごく難しかった。谷口(正晃)監督は、映画のときに助監督として付いていた方で。現場のことも全部知っていて、その監督が今回ご一緒させていただくことになって、本当に細かい目線で見ていてくださって、引き出しの深いところから出してくださった。そこで自分では気づかない発見がいっぱいありました。黙っている照恵のシーンでも深いところから引き出しを開けてくださったり、豊子のところでも『こういうやり方もあるよ』と思いが強かったそうで、いろんな引き出しをいっぱい開けられちゃったなという感じです。感覚的に女優としてすごく学んだことがたくさんありました」と女優としての新しい扉を開いた作品になったようだ。

 <プロフィル>

 しのはら・りょうこ 1973年8月13日生まれ、群馬県出身。90年に東京パフォーマンスドールのメンバーとしてデビュー。94年にリリースした篠原涼子with t. komuro名義のシングル「恋しさとせつなさと心強さと」が大ヒット。90年代後半から女優として本格的に活動し、2006年に連続ドラマ「アンフェア」で主演。その劇場版第1作「アンフェア the movie」(07年)で映画初主演を果たす。シリーズは劇場版が3作作られた。「ハケンの品格」(07年)、「ラスト・シンデレラ」(13年)、「オトナ女子」(15年)などのヒットドラマに多数主演。05年に俳優の市村正親さんと結婚。2児の母。

 (インタビュー・文・撮影:細田尚子/MANTAN)

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