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マッツ・ミケルセン:「ドクター・ストレンジ」で敵役 ハリウッド超大作に立て続けに出演「偶然だよ」

 マーベル・スタジオが生んだ新たなヒーローが活躍する「ドクター・ストレンジ」(スコット・デリクソン監督)が27日に公開された。ベネディクト・カンバーバッチさんが演じる事故で両手の機能を失った天才外科医スティーブン・ストレンジが、予期せぬ運命を得て魔術師となり、“闇の魔術”との戦いに巻き込まれていくファンタジックアクションだ。今作で、ドクター・ストレンジの宿敵となる魔術師カエシリウスを演じているのは、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年)での、ヒロインの父ゲイレン・アーソ役が記憶に新しい、デンマーク出身の俳優マッツ・ミケルセンさん。1年半ぶり2度目の来日を果たした“渋いイケメン”のミケルセンさんに話を聞いた。

 ◇願いは万人の永遠の命

 ミケルセンさんが演じるのは、闇の魔術に魅(み)せられ、悪の道をひた走る魔術師カエシリウスだ。とはいえ、私利私欲に燃えた根っからの悪人ではない。彼が凶行に走るのは、不老不死のユートピアを実現するため。その思いの根底には、愛する者を失った悲しみがある。「カエシリウスの願いは、みんなが永遠の命を持てること。その考えは決して間違っていない。ただ、やり方が過激なため、犠牲を伴ってしまうんだけどね」とミケルセンさんは、カエシリウスの人物像を説明する。

 ミケルセンさんからすると、ドクター・ストレンジとカエシリウスは合わせ鏡のような存在で、「カエシリウスにとってドクター・ストレンジは、自分自身を見ることができる興味深い存在なんだ」と話す。両者の違いは「ドクター・ストレンジは、言われたことに耳を傾け、その言葉に納得できた。対してカエシリウスは、詳しいことはここでは詳しく話せないが、裏切られたという思いにつながってしまった」と表現する。

 また、ドクター・ストレンジとカエシリウスは、ナルシストである点も共通していると指摘。「『ドクター・ストレンジ』は、自己中心的だったストレンジが、修業を積むことでまっとうな人間になっていく成長物語でもある。一方のカエシリウスは、もともとまともな人間だったけれど、修業を積むことで一つのことしか見えなくなり、自分は正しい道を歩いていると思い込んでいる。彼は、数千人の命を犠牲にしてでも、世界中に“永遠の命”をもたらそうとしている。もっとも、世界に平穏が訪れるなら、数千人の命の犠牲は、安い代償といえるかもしれないけどね」とカエシリウスの行動に理解を示した。

 ◇二面性に引かれる

 そういえば、「ローグ・ワン」のゲイレン・アーソも、世界を滅亡させるほどの兵器の設計に従事したが、それは娘を守るためだった。その点からすると、両者は複雑なキャラクターで「今は、悪役が、小さな子供を食べちゃう海賊(笑い)のような単純なものだったら、役者も魅力を感じない時代なんじゃないかな。悪役とはいえ、二面性があったり、その行為に納得できる理由があったりしないと」とミケルセンさん。そして、「ゲイレンは、自分でも悪の道に行ってしまうかもしれないと思いながら、好奇心を止めることができなかった。それは、彼が科学者だからだ。でも、そういう善と悪の狭間にいるキャラクターは、人間的でもある。だから共感できるし、ただの悪で終わらない。そういうキャラクターは演じていて面白い」と話す。さらに、「それに、戦争というのは、二つの立場があって、それぞれに言い分がある。そういう(二面性を持った)キャラクターは、自分とは違う言い分があるということを理解することにもつながると思うんだ。争いというものは、片方だけを悪と決めつけることから起きるものだからね」と複雑なキャラクターを演じることの醍醐味(だいごみ)を広い視野で語る。

 ◇いいスタントに痛みは必要

 ワイヤを使ったアクションも今作の見どころだが、これまでの出演作でも自身でスタントをこなしてきた。しかし、今回はちょっと勝手が違った。「いつもなら、一つのアクションシーンでも分けて撮影するから、たとえけがをしても、次の撮影までに治すことができる。でも今回は毎日だった。さすがにきつかったよ」と苦笑しつつ、「だけど、小さいころからこういうアクションをやりたいと夢見ていたから、駄菓子屋で目を輝かせている子供のような気持ちで毎日臨んでいたよ」と振り返る。

 幸い、深刻なけがはなかったそうが、生傷は絶えなかった。「相手をけがさせてしまったり、自分がけがをさせられたりね。だけど、スタントマンなんか、いつもけがをしたり骨折したりしている。それに比べたら軽いものだよ。それに、ある程度けがをして痛みを感じなければ、それはいいスタントとはいえないと思うんだ」と役者魂を見せた。

 ◇美しい女性とは?

 ところで、ドクター・ストレンジの師匠となる、ティルダ・スウィントンさん演じるエンシェント・ワンは、静かなたたずまいの中に圧倒的な力を秘め、それを武器に人類を脅かす敵と戦っている。その姿はパワフルであると同時に美しくもある。その指摘に「エンシェント・ワンが美しいと感じる理由の一つは、パワフルな女性……ジェームズ・ボンドに匹敵する女スパイ、モデスティ・ブレイズもそうだったけれど、そういうキャラクターが最近、映画やテレビで増えているからだと思う」とミケルセンさんは話す。そして、「男性からすると、どんな女性だって美しいものだよ」としたうえで、「僕自身が美しいと思う女性は、自分がそうありたいと望む自分であることができる人。そして、男性を男らしくさせてくれる人かな」とにっこり。ちなみに、最近はやりの“ノージェンダー”という考え方は、「あまり好きではない」らしく、あくまでも「男がいて、女がいる」のが理想のようだ。

 そんなミケルソンさんの目に、日本の女性はどのように映っているのだろうか。「まだ日本の女性とは深く知り合う機会がないからな……(笑い)」とちょっと考え込んでから、「でも、日本の文化はとても面白くて、伝統的に女性的なものもあるよね」と親日家ぶりをにおわせる。そして、「そうだな、日本の女性は、強さと、いい意味で脆(あやう)さがある。そして、他の国に比べて、女性らしさを捨てずに強い女性になれる、そういう印象かな」と話した。

 故国デンマークでは“至宝”といわれるほどの人気俳優で、「007/カジノ・ロワイヤル」(06年)での悪役で世界的に注目されてからも、「偽りなき者」(12年)や「悪党に粛清を」(14年)、「メン&チキン」(15年、日本未公開)といったデンマークの、いわゆるアート系の作品やコメディー作品にも出演し続けている。今回、「ローグ・ワン」と、この「ドクター・ストレンジ」という、ハリウッドの超大作に立て続けに出演することになったが、そこに特別な戦略はなく、「偶然だよ」と気負いはない。

 「面白い企画だと思ったら、たまたま両方大作だったというだけ(笑い)。まあ、『ローグ・ワン』については、『スター・ウォーズ』(1977年)は誰もが憧れる作品で、僕もそれを見て育った。そんな作品のシリーズに出られる機会はそうあるものじゃないから、オファーされて出ないわけにはいかないだろう?」と構える様子もなく答える。作品選びの根拠は、あくまでも面白い企画、面白い役だという。今後も、自分が納得できる作品に出演し続けるのだろう。映画「ドクター・ストレンジ」は全国で公開中。

 <プロフィル>

 1965年生まれ、デンマーク出身。97年、「プッシャー」で映画デビュー。「ドグマ95」作品「しあわせな孤独」(2002年)や「アフター・ウェディング」(06年)などに出演。「キング・アーサー」(04年)で米映画に進出。その後、「007/カジノ・ロワイヤル」(06年)の悪役ル・シッフル役で世界的に注目される。ほかの出演作に「タイタンの戦い」(10年)、「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(11年)、「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(12年)、「悪党に粛清を」(14年)、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(16年)など。「偽りなき者」(12年)でカンヌ国際映画祭主演男優賞受賞。テレビシリーズ「ハンニバル」(13~15年)ではハンニバル・レクター博士を演じた。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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