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今年芸歴35周年を迎えた女優の一路真輝さんが主演するミュージカル・コメディーの名作「キス・ミー・ケイト」(映画演劇文化協会主催・製作)が7月から全国15会場で上演される。小学生のころ、地元・名古屋で宝塚歌劇団と出会い、舞台人への道を歩み始めた一路さん。宝塚音楽学校での思い出や、14年ぶり2回目の出演で「ワクワクする」という「キス・ミー・ケイト」について話を聞いた。
◇宝塚には感謝しかない 最近やっと大人になった?
「名古屋出身なので宝塚を見たのは中日劇場でした。小学6年の春休みに、自分が進みたい道を見つけて、ファンになって。15歳のときに親元を離れて宝塚音楽学校に入学して、歌と踊りと芝居の世界に入って……。小さいころの夢を、宝塚に入ることでかなえて、宝塚のトップにもなり、辞めてミュージカルで大きな役をやらせていただいて……。10代で出会った宝塚には感謝しかないですね」と半生を振り返った一路さん。
次々と夢をかなえる秘訣(ひけつ)を聞くと「秘訣はないですね。ただ好きで、あとは自分が才能のある人間とは思っていないので、一生懸命にやること以外、なかった」と話し、最近共感した言葉として「努力は報われて、報われないのは努力が足りない」という言葉を挙げた。
「私も宝塚音楽学校に入るために、半年間、寝る間も惜しんで受験勉強をしました。(入学後、生徒の中には)幼稚園のころからバレエを習っているという人もいて、そういう人にはかなわない。じゃあどうするかというと、朝から晩まで(練習を)やるしかない。このままじゃ、ふるい落とされて初舞台を踏めないかもという不安もあって、朝から晩まで、人が寝ている時間もやっていたという記憶しかないんです」と懐かしそうに語る。
現在は「歌のないお芝居をやるようになって、その世界で自分に足りないものがすごく分かる」という。初日までに2カ月ほど稽古(けいこ)期間があるミュージカルと違い、「ミュージカルの5~6倍の(厚さの)台本をもらって、3週間後に初日。そういう経験が今までなくて、家でやることが山積み」と苦労もあるが、「次から次へと自分の中に課題が降りてくるのは、ある意味幸せ。クリアはできていないんですけど、目標ができるので。いろいろな意味で毎日が勉強です。最近やっと大人になったかな」とジョークを交えて笑顔を見せた。
◇新しいキス・ミー・ケイトに期待 全国での“出会い”に「ワクワク」
「キス・ミー・ケイト」は、シェイクスピアの喜劇「じゃじゃ馬ならし」を劇中劇に仕立て、その舞台裏と劇中劇を交互に見せるミュージカル。「じゃじゃ馬ならし」の初日、脚本・演出・主演・プロデューサーを務めるフレッド(松平健さん)は、抜てきした女優ロイス(水夏希さん)に気がありながらも、元妻の女優リリー(一路さん)ともいい雰囲気になるが、一つの花束が大騒動を巻き起こす……という物語だ。
一路さんは同作について、14年前を振り返りながら「ドタバタコメディーっぽいところもあるんですけど、最終的にはハッピーエンド。すごく分かりやすくて気軽に楽しめる作品。ダンスも一つのパフォーマンスとして重要な部分を占めています。(元夫への)女心を隠しつつも、(劇中劇で)じゃじゃ馬を演じる、非常にいろいろな面を出さなくてはいけない役なので、楽しいですし、すごく発散できる舞台ですね」と語る。
また、今回、振り付けと演出を、ダンサーでもあり、ミュージカル「テニスの王子様」の演出も手がける上島雪夫さんが新たに担当することから、「新しいキス・ミー・ケイトが生まれそうな感じがします」と語る。「前回は大きな劇場で約1カ月単位の、固定の公演でしたが、今回は全国をいっぱい回って、たくさんのお客様に足を運んでいただく舞台。セットもなるべくコンパクトに、どの劇場にも合うものになると思います。その点でも、まったく違う感じになると思いますね」と期待している。
「中日劇場で宝塚を見ていなかったら、たぶんこの道に進んでいなかったと思うし、今の自分もないと思います。(当時は)本拠地から全国に来てくれて、ありがたいことだなと思いました」という一路さん。「今回、どこかの劇場でキス・ミー・ケイトを見た子に、ミュージカルをやりたいと思ってもらえるかもしれないし、長年、人生経験を積んだ方でミュージカルを見たことがない方がいらっしゃるかもしれない。全国でミュージカルを見ていただけることに、とてもワクワク感があります。気軽に見に来ていただき、何かを感じていただければ」と全国公演への思いを語った。
キス・ミー・ケイトは7月1日のサンシティ越谷市民ホール(埼玉県越谷市)大ホールを皮切りに、群馬、長野、富山、山梨、東京、福島、茨城、愛知、岐阜、静岡、岡山、兵庫で上演される。チケット価格は会場によって異なり、1人4000円~7000円。発売中。
<プロフィル>
いちろ・まき。1965年1月9日生まれ。愛知県出身。宝塚歌劇団トップスターとして活躍し、1996年に退団。同年、東宝ミュージカル「王様と私」のアンナ役で“女優デビュー”した。2000~06年に東宝版「エリザベート」に出演したほか、「キス・ミー,ケイト」「イーストウイックの魔女たち」「アンナ・カレーニナ」「リタルダンド」「ルドルフ」などに出演。1996年に第22回菊田一夫演劇賞、2004年に第12回読売演劇大賞優秀女優賞、16年に第37回松尾芸能賞優秀賞を受賞した。