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Vision:永瀬正敏と岩田剛典に聞く(上) 河瀬組の流儀を伝授「包み込むような優しさ」感じた

 「あん」(2015年)や「光」(17年)などの作品で知られる河瀬直美監督の最新作「Vision」が全国で公開中だ。フランスの名女優ジュリエット・ビノシュさんを主演に迎えたことでも話題の今作で、ビノシュさんとダブル主演する俳優の永瀬正敏さんと、永瀬さんとは役を超えた“師弟愛”を育んだ「EXILE」「三代目 J Soul Brothers」のパフォーマーとしても活躍する岩田剛典さんに、河瀬組ならではの撮影現場の様子や役作り、さらに互いの印象などについて聞いた。

 ◇カメラが回って「はじめまして」

 「河瀬組ってなかなか特殊でしてね。こうして今、しゃべっているようなことを、現場では一切しゃべれないんです。その日の朝(現場に)入るとして、まだ会っていない(設定)とすると、わざわざ違う部屋で支度をして、現場で初めて会うようセットされるんです」と今作が河瀬組3作目となる永瀬さんは、撮影当時を振り返る。そのため、永瀬さんとは今作が初共演だった岩田さんは、2人が初めて出会うシーンの前にあいさつすることはかなわず、カメラが回り、役の上で出会う場面が「はじめまして、でした」と恐縮する。

 物語は、ビノシュさん扮(ふん)するフランス人エッセイストのジャンヌが、奈良・吉野にある山深い森に、「ビジョン」という薬草を探しに訪れることで動き出す。永瀬さんが演じるのは、その森の自然を守る“山守”の智(とも)だ。ジャンヌは吉野に滞在中、智の家の離れに泊めてもらうことになる。一方、岩田さんが演じるのは、智が森の中で出会う青年、鈴(りん)。彼もまた、智の家に身を寄せ、智から山守としての生き方を学んでいく。

 ◇「リバー・フェニックスみたい」だった岩田

 撮影に入る前、岩田さんは河瀬監督から、森の中に至るまでの、鈴としての生い立ちや家族といったバックボーンを「全部作ってくる」よう指示された。そのため岩田さんは、祖母役の白川和子さんと、東京の公園でピクニックをするなど実体験を積んでからロケ地の吉野の森に入ったという。その瞬間、河瀬監督はじめスタッフやキャストは、岩田さんを「鈴」としか呼ばなくなり、当然、「岩ちゃん」と声をかけられることもなかった。そういった方法は岩田さんにとって経験のないことで、だからこそ永瀬さんの「包み込むような優しさ」が身にしみたという。

 岩田さんによると永瀬さんは、撮影初日に一緒に散歩に行き、河瀬組で撮影していくことの日常、あるいは河瀬組の現場が「演じるということではなく、役を生きていく現場」であることなど、それこそ「河瀬組のイロハみたいなものを教えて」くれたという。それによって岩田さんも「腹を据える」ことができたと語る。

 そんな岩田さんを、永瀬さんは「鈴としてもそうですけど、岩田君としてもすごく礼儀正しい青年」と言い表す一方で、ロケ現場での岩田さんは、「笑っている目の奥の寂しさみたいなものが、ちょっとリバー・フェニックスみたいに見えた」と語る。

 ◇大自然の中で発見したこと

 現場では、智と鈴としてコミュニケーションをとっていた永瀬さんと岩田さんだが、2人が台所で料理をする場面では、それまでかげりのあった智の顔に、「ちょっとコミカルな感じ」(永瀬さん)が宿る。それは、「鈴という存在が自分(智)にとって、何かを変えてくれる存在だと思っていたので、ジャンヌと過ごしてきた前半部分と何か違う、彼(鈴)が来たことによって(智の)心の扉が少しずつ開いている」ことの表れだと、永瀬さんは説明する。

 今回、山守を演じるにあたり、永瀬さんは、実際の山守からチェーンソーの扱いから薪(まき)割りや枝打ち、さらに特殊伐採の訓練を受けた。そして、その技術を、今度は岩田さんに伝授した。それも「役を生きる」ために必要なことだった。永瀬さんは、鈴が特殊伐採する場面を挙げ、「僕は2日目から参加したんですけれど、そのときには(岩田さんは)するすると(木に)登っていましたからね」と岩田さんの運動能力に感心しつつ、そのとき鈴が、のこぎりを逆手に持ち枝を切り落としていたことに触れ、「普通に切っているように見えますけど、あのときの息遣いとかリアルですよね。あれは本当に難しいんです。それを僕は声を大にして言いたい」と岩田さんの迫真の演技をたたえる。

 その言葉に勇気づけられたか、岩田さんが「吹き替えは使ってないです。自分で登って……」と遠慮がちに言葉をはさむと、永瀬さんは「自分で登ってたね。僕は下から応援していただけですから(笑い)」と“愛弟子”を労った。ちなみにその撮影で岩田さんは、「下りてきて安心したと思ったら、監督から、もう1回上がってと言われた」ことを明かし、「結構上がるのしんどいんです」と苦笑交じりに本音をこぼしていた。

 今回、吉野の森の大自然の中で役を生きた2人。それぞれに発見したことを聞くと、永瀬さんは、智の“相棒”の紀州犬コウの存在を挙げ、「コウが未だにいとおしいんです。僕は猫派だったんですけど、犬も大好きなんだなと、それは新たな発見ですね」と話してから、「(答えは)そんなことでいいんですかね(笑い)」と頭をかく。

 一方、岩田さんは「『郷に入りては郷に従え』ではないですけど、最初は大丈夫かなと思っていましたが、意外と撮影に入ったら森の中にいるなんて1ミリも思わなかったんです」と自身、「自然の中でも生活できるタイプなのかもしれないことに気づきました」と話していた。映画は8日から全国で公開中。

 <永瀬正敏さんのプロフィル>

 ながせ・まさとし 1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。「ションベン・ライダー」(1983年)でデビュー。以降、「ミステリー・トレイン」(89年)、「息子」(91年)、「PARTY7」(2000年)、「毎日かあさん」(11年)など数々の映画に出演。最近の映画作品に「KANO~1931 海の向こうの甲子園~」(15年)、「64-ロクヨン-」「後妻業の女」(ともに16年)、「パターソン」(17年)、「蝶の眠り」(18年)など。河瀬直美監督の作品では「あん」(15年)、「光」(17年)に続いて今作が3作目。待機作「菊とギロチン」(7月7日公開)ではナレーションを担当する。

 <岩田剛典さんのプロフィル>

 いわた・たかのり 1989年3月6日生まれ、愛知県出身。「EXILE」「三代目 J Soul Brothers」のパフォーマー。2013年の舞台で俳優として本格始動。「クローズ EXPLODE」(14年)で映画初出演。他の映画作品に、「HiGH&LOW」シリーズ、「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」(16年)、「去年の冬、きみと別れ」(18年)がある。待機作に「ウタモノガタリ -CINEMA FIGHTERS project-」(6月22日公開)、「パーフェクトワールド 君といる奇跡」(10月5日公開)がある。

 (取材・文・撮影/りんたいこ)

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