映画「あいあい傘」に出演した原田知世さん
「50歳になって、ふっと気持ちが楽になったんです」と語るのは、今年、NHK連続テレビ小説「半分、青い。」での好演も話題となった女優の原田知世さん。映画「あいあい傘」(宅間孝行監督、26日公開)では、複雑な事情を抱えながらも、内縁の夫と周囲の人々を優しく包み込むような女性、玉枝役を演じている。2017年に活動35周年を迎え、年齢を重ねてますます輝く原田さんに、「私も同じだな」と感じるところもあったという今作の役への思いや、伸びやかに生きる秘訣(ひけつ)を聞いた。
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◇台本を読んで、涙が出た
「あいあい傘」は役者・演出家・脚本家として活躍する宅間孝行さんが、12年まで主宰していた劇団「東京セレソンデラックス」の名作舞台を映画化した。25年前に姿を消した父親を探しに田舎町にやって来た女性・さつき(倉科カナさん)が、新しい家族と共に暮らす父・六郎(立川談春さん)と再会する姿を描く。原田さんは、六郎の内縁の妻・玉枝を演じている。
「温かい愛にあふれた作品」と台本にほれ込んだという原田さん。「六郎さんも玉枝さんも、“この生活が当たり前のものではない”と分かっている。だからこそ、お互いを慈しみ合える。一つ一つの出来事を貴いことだと感じながら過ごしている彼らの姿に、胸を打たれました」と台本を読んで涙が出たことを明かす。
演じた玉枝については「素晴らしい女性だと思った」といい、「ここまで深く誰かのことを思うことができるのかと。とても柔らかくありながら、軸がしっかりとあって、しなやかな女性。すごく好きだなあと思った」と心を寄せる。玉枝の営むお茶屋には、彼女の笑顔に導かれるように個性的な面々が集うが、「みんなが玉枝さんのところに集まってくるのが、よく分かる。顔を見に行こうかな?と思いますよね。ものすごく包容力のある女性」と癒やす力を感じたという。
◇役柄とリンクした「感謝する気持ち」
「玉枝さんは、周りに集まってくるみんなのことを大事にする。ご縁に対して“ありがたい”という気持ちを忘れない人」と分析する原田さんだが、「私も大切に思う人たちから愛をもらったり、支え合ったりしながら、生きてきました。振り返ってみると、ご縁がすごく大事だなと思って。抱いている感謝の気持ちは、私も玉枝さんと同じだなと思ったんです」と共感する点も多かったという。
原田さんは17年に活動35周年を迎えた。「時をかける少女」(1983年)でスクリーンデビューし、「私をスキーに連れてって」(87年)など時代を代表する映画で主演を飾る一方、歌手としても確固たる地位を確立し、透明感あふれる存在感でファンを魅了してきた。「気づけば35年だったんです。まさかここまで長く続けられるとは」と驚きながら、周囲があってこそと感謝の気持ちがあふれ出す。
「このお仕事は出会いがすべて。作品や監督、スタッフさんとの出会い。皆さんにいろいろなものをいただきながら、ここまでやってこられました。どの出会いも私にとって欠かせないもの」と道のりを振り返り、「一人では到底、歩んでこれなかった。昨年は35周年を迎えて、いろいろな人に感謝の気持ちをお返する一年にしようと決めていました」と胸の内を明かす。
◇50歳になっての心境の変化は?
昨年は、35周年とともに50歳という節目も迎えた。心境に変化もあったといい、「50歳になって、ふっと気持ちが楽になったんです」と告白する。「オーディションを受けてこの世界に入って。たくさんの作品に出合わせていただきましたが、どこか自分の使命のように思ってやってきたところがあったんです」と張り詰めていたところもあった様子。
「でも35周年となったときに、結構やってきたんだなと思えた。ここから先はもっと肩の力を抜いてもいいんじゃないかという気持ちになった」とこれまでの自身の奮闘が励みとなったようで、「これからは、一つ一つのお仕事を丁寧かつ、より軽やかにできればいいなと思って。世代が変わると気分も変わるものなのか、不思議なものですね」とさらなる意欲を見せる。
モットーは、過去にとらわれるのではなく「今を生きること」という。「体力など失うものもあるけれど、心の余裕などふくよかになる部分もある。増えていくものを感じると、過去に戻りたいと思うこともありません。常に今の自分が一番元気!と思えたら最高。今の自分の心のままで、過去を見に行きたい気はしますね」と年齢を重ねる楽しさを実感している。「うまくいかなかったなということがあっても、次に頑張ろうと思えるようになった。自分に対しての優しさみたいな(笑い)。50歳になって特に、それでいいんだと思えるようになりました」と軽やかだ。
◇和子さんは「心の中でずっと生きている」
「気持ちを切り替えて、笑顔で明日を迎えようとしていると、またいい出会いがある気がする」と原田さん。今年は「半分、青い。」の和子役も話題になったが、「20代から60代までを演じる機会もなかなかありません。演じていて楽しかったですし、長い時間を一緒に過ごして、和子さんに愛着もあります。お別れするのはとても寂しいなと思いました。私の心の中には、ずっと和子さんが生きています」としみじみと語り、「知り合いの方で、私の姉に(和子さんに会えなくなるのが)『寂しいですね』と声をかけてくださった方がいて(笑い)。『私は元気です』と思ったんですが、それくらい皆さんに愛してもらえる役と出合えたことは、役者として本当に幸せです」と喜びをかみしめる。
「これまで演じた役は、心の中で生きている。あの人だったら、こうするなと想像することもある」という。「役を通していろいろな人生を歩み、いろいろな経験をさせていただける。同時にその当時の自分が映像として残っているということも、ありがたいです。改めてすごい仕事だなと思っています」と女優という仕事への興味は尽きない。
そんな原田さんにとって、いつも力をくれる魔法の言葉があるという。それは家族や友人など身近な人からもらった「これまで準備をしてきたんだから、自信を持って。あなたらしくやるだけ」という言葉だ。「気持ちが楽になったとはいえ、新しいお仕事が始まるたびに、私はいつも緊張するんです。でも本番前やライブ前など、『あなたらしく』という言葉を思い出すといつも背中をポンと押されます。緊張したままでいると、伸びやかな動きができないもの。できるだけ解放すれば、いい表情になるのではと思っています」と笑顔で語る。伸びやかさの秘訣は、これまでやってきた自分と、それを信じてくれる周囲の存在を感じることのようだ。
◇美しさの源は?
美容と健康で気をつけていることは「バランスのいいお食事、睡眠、適度な運動。基本的なことですが、それが一番大事」とのことだが、とりわけ好きな食事は「おみそ汁。あとは大豆系のもので、納豆やお豆腐など。姉がぬか漬けを作っているので、それを毎日食べたり」。また、内面から輝くためには「自分にご褒美をあげるようにしている」とほほ笑む。「頑張ったあとには、自分へのご褒美。先日、小学校時代の友達が東京に出てきたので、一緒に明治神宮や浅草、お台場を巡ったんです。そういう時間を過ごすことも大事ですね」と明かした。
ファッションでハマっているのは「ビンテージもの」だという。「最近は、古着屋さんを回ったりしているんです。一つしかないもののよさがあって、いろいろなところをたどって、ここにたどり着いてきたんだと思うと、これも出合いで、縁だなと思います」と話していた。最近は古着屋で見つけたボルドーで襟が白いワンピースがお気に入りとのこと。いつまでも色あせない、それどころか美しさに磨きがかかっている原田さん。これからの活躍がますます楽しみだ。
<プロフィル> はらだ・ともよ 1967年11月28日生まれ、長崎県出身。1983年、映画「時をかける少女」でスクリーンデビュー。以降、多くの映画、ドラマに出演。ドキュメンタリー番組などのナレーションを担当するなど幅広く活躍。歌手としてもコンスタントにアルバムを発表している。主な映画出演作に「落下する夕方」(98年)、「サヨナラCOLOR」(2005年)、「紙屋悦子の青春」(06年)、「しあわせのパン」(12年)などがある。また2018年は、連続テレビ小説「半分、青い。」に出演。 (インタビュー・文・撮影:成田おり枝)
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