人気グループ「Hey! Say! JUMP」の山田涼介さんの主演ドラマ「セミオトコ」(テレビ朝日系、金曜午後11時15分※一部地域を除く)で、訳アリの住人たちが暮らす「うつせみ荘」の大家の一人、庄野ねじこを演じる阿川佐和子さん。私生活でも親交の深い檀ふみさんと姉妹の役柄で、ほとんど「うつせみ荘」から外に出ない、のんびり屋のキャラクターを好演している。連続ドラマに出演するのは「陸王」「チア・ダン」(共にTBS系)に続き3度目となる阿川さんに、檀さんとの共演エピソードや女優業の魅力を聞いた。(渡邊玲子/フリーライター)
◇親友・檀ふみと共演「監督が3人ぐらいいる感じ」
「私が着ると七分袖なんだけど、檀さんが着ると半袖になるの」。おそろいの花柄の服やパジャマを着こなす阿川さん演じる「ねじこさん」と檀さん扮(ふん)する「くぎこさん」の、「阿佐ヶ谷姉妹」ならぬ「国分寺姉妹」のどつき漫才のようなやりとりも、今作の見どころの一つ。
檀さんとの共演の感想をたずねると、「恐怖の挑戦でしたよ。最初は『どうしよう』って。あちらベテランでしょ? だからお叱りが多いの。『動きすぎよ』とか『もっとゆっくり話したほうがいいんじゃないの?』とかね」と振り返る。
ドラマを手がける服部宣之プロデューサーは「あえて本来の二人の性格とは逆のキャラクターを演じてもらった」というが、檀さんから「私にせっかちな役はできるけど、あなたにのんびりした役は無理だと思うの」と言われてしまったという阿川さん。「監督が3人ぐらいいる感じなんですよ。本当の監督でしょ、助監督でしょ、それから『くぎこ監督!』」
さらに檀さんについて「自分では『私はのんびりしてるの』って言ってますけど、決して檀さんはのんびりした性格じゃないと思います。人に指示するし、現場を仕切る、仕切る! 檀さんの方が私よりも圧倒的に姉御肌」と、親友だからこそ知り得る、檀さんの意外な一面を明かす。
◇「演技って本当に奥深い…」
本作の見どころについて「今回はファンタジックな設定で、檀さんとの丁々発止プラス、回を重ねるごとに『うつせみ荘』の住人同士の間に生まれつつあるハーモニーの心地よさみたいなものが、見ている人たちに伝わればいいなと思っていて。私の場合は『そうね』とか、『あーそうよね、くぎこさん』とかね。『合いの手女優』の役割だから。たまにどこで入れるのか分かんなくなっちゃって、肝心なところで(合いの手が)抜けるのよ」と笑う。
役を演じる上では「セリフや表情がどうとかいうのを私が下手に考えるよりは、『うつせみ荘』全体の中で、チャキチャキのくぎこの妹として、どういう立ち位置で存在しているかっていうことの方が、ずっと大事なこと」だと語る。
さらに阿川さんは「演技のことをとやかく言うような立場じゃない」と前置きしながらも、「たとえ台本を忠実に読んだとしても、声の出し方とか、テンポとか、間の取り方とか、リアクションとかで、いかようにも捉えられると思うから。例えば今日も『え?』というのがあるんだけど、『えぇっ!』て言うのか、『え……っ』て言うのかで、随分違ったものになるものだっていうことを考えると、演技っていうのは本当に奥深くて面白いなって思うんです」と振り返る。
「お芝居って、役を通じて自分が全体のオーケストラの中の役割を担っているか考えるのが面白いんです。監督とかプロデューサーに少しずつ直してもらいながら、どんな音色を出せるか考えるのは好きですね」
また、「こないだね、中井貴一さんにインタビューした時にね、『役者の仕事っていうのは、波線グラフじゃないから。棒グラフだから』って言われたの。『自分ではそこそこ自信がついたなと思っても、次のドラマの時はまたゼロからスタートすることになるんだから』って」とエピソードを明かし、「『あんなベテランでもそうなんだ』と安心しました。『檀さんに叱られながら、ちゃんとゼロからやらなきゃいけないんだな』って」と笑みを見せる。
「すでに女優業はやみつきに?」と聞くと、「私の仕事は、基本的に全て受注産業ですけどね」と笑いつつ、普段の仕事と女優業との違いについて「いつもの仕事はインタビューも含めて割と少人数。小説にしろエッセーにしろ、基本は自分が書かないと前に進みませんから、常に自分との戦いなんです。でもドラマの場合は『1、2の3!』で、同時にそれぞれの役割を100%発揮して『同じ目的に向かっていきましょう!』っていう仕事でしょ。演者だけでなく照明さんも音声さんも道具係もみんな。その職人技みたいなものを見ているだけで、いつも感動するんです」と明かす。
◇90歳になっても「常に新しいことを…」
一方でドラマの現場について「本当にブラック企業。よくもまぁ、みんな訴えもせずにやってるなって思う(笑い)」と語りながら、「でもあれだけ必死で頑張れるのは、きっとそこにいるみんなが『いいものを作りたい!』って考えてるからだと思うのね。誰かに『よかったよ!』って言われることを目標にしながら、『自分はどの音を出したら、全体が良いアンサンブルになるんだろう』って考える醍醐味(だいごみ)はねぇ、個人事業者にはない喜びなんですよ」としみじみ。
「でも、だからって別に役者になるって決めたわけじゃないですよ。オファーがなければできないし」と笑顔で付け加える阿川さん。そもそも「熟練するってことにあまり興味がない」といい、「少しずつ上手くなっていくっていう初心者的な」立ち位置が好きなのだと語る。
「私はゴルフを51歳にして始めたんですけど、そうすると息子みたいな年頃の子たちに『頭上がってますよ!』『ほら、またさっき言ったことやってない!』って怒られるの(笑い)。でも私、小学1年生みたいに教わって、『できたじゃないか!』って褒めてもらうのが結構好きなんですよ」
そんな阿川さんにとってドラマの世界は、「いつまでも初心者でいられる場所」だという。「『今日はここがちょっと褒められたかな?』ってやってるのが好きなんです。きっと90歳くらいになっても、私は常に何か新しいことをやりたいって思うんだろうな」