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彼女がキレイな理由:松雪泰子さん 女優は「人の心や生き方に向き合う仕事」 今後はクリエーティブな挑戦も

 女優の松雪泰子さんが主演した映画「甘いお酒でうがい」(大九明子監督)が近日公開される。今作で松雪さんは、「撤去された自転車との再会を喜んだり、変化を追い求めて逆方向の電車に乗ったり、踏切の向こう側に思いをはせたりする、40代独身の派遣社員」の川嶋佳子を演じている。松雪さんに、“佳子さん”の役作りについて、大九監督ならではの演出、さらに女優という仕事との向き合い方などについて聞いた。

 ◇決め手は“佳子さん”のキャラクター

 松雪さんは、台本を読んで「じろうさんがつづる言葉の美しさとリズムに引かれた」という。「ベースは日記なんですけど、詩的で淡々としたリズム感の中に、穏やかな空気の流れが感じられて、台本というより小説を読む感覚に近かった」と振り返る。

 演じた“川嶋佳子”については「キャラクターがすごく魅力的だった」といい、その理由を「優しさやユーモアの中にちょっとした孤独も感じられて、すごく複雑だし、人間的なところがある」と分析する。「じろうさんがコントで演じる“佳子さん”のことは、もともとふわっとしか知らなかったので、『見てみたいな』と思って(YouTubeで)見たんですが、『ああ、(映画は)そういうことじゃないんだな』っていうのを、改めて確認した感じですね」と笑顔で語る。

 松雪さん自身も“佳子さん”に共鳴する部分があった。「たくさんありました。私も掃除するときにはものに話しかけたりしますし(笑い)」と意外な一面をのぞかせる。さらに「“佳子さん”って、後ろ向きに走っているようなところがあって。たまに変な視点で物事を見ちゃって、急に被害妄想に陥ったり……。いちいち自分の居場所を確かめながら前に進む、みたいなところがあるんですが、割と私自身もそういうタイプだったりするので……」と明かし、「私自身、日々内省する時間をすごく大事にしているんです。きっと“佳子さん”の場合は、お酒を飲んでいる時間がそれに当たるんじゃないかな。『軸がブレたら元に戻す』感覚って、私もすごく大事だなって思ってます」と語る。

 松雪さんは、今作のような「アラフォー世代の女性が主人公の作品は、海外にはあるけど日本にはあまりない」と感じているという。「大九監督がフランスの映画祭に行かれた際に『日本でもアラフォー世代の女性の映画』を作りたいというお話になったみたいで。そういった経緯もあって、この映画が生まれたようなんです」

 ◇「何が飛び出すか分からない!?」スリル満点の現場

 今作は川嶋佳子のモノローグでストーリーが展開していく。松雪さんはモノローグの難しさについて「アプローチ次第で全然違う印象になってしまうので、大九監督と一緒に『どんなトーンでいったら、佳子さんの心の穏やかさが表現できるんだろう?』って、試行錯誤しながらアフレコで入れていきました」と明かす。「逆に演じる時にはモノローグをあまり意識しないようにしました。そこはあえて切り離して考えた方が面白くなるんじゃないかなって思ったんです」と話していた。

 大九監督の撮影は「脚本には一切書かれていないことが、常に用意されているような現場だった」といい、「『さてと、今日はいったい何が出てくるのかな?』って毎日楽しみで。『自分の想像ではこうだったけど、なるほどそっちかあ!』みたいな感じでしたね(笑い)」と振り返る。

 中でも印象的だった場面は「酒屋さんでボジョレーヌーボーを買うシーン」を挙げ、「台本には『ボジョレーヌーボーを買って、若いカップルを見て、ほほ笑む』っていうト書きしかないんですけど、現場に行ったら『踊ってください!』って言われて、『そうか、踊るのか……』って即興で踊りました(笑い)。すべてがそんな感じですっごく面白かったです」と笑顔で語る。

 さらに、古舘寛治さん演じる「道端で怒っているおじさん」と一緒に佳子さんが歌うユーモラスなシーンについては、「もちろんあのシーンはあらかじめ歌うこと自体は決まってはいたんですけれど、古舘さんご自身も感性の方なので(笑い)。私は古舘さんに合わせてハモらなければいけなかったので、かなり高度な技術が求められましたね」と楽しそうに明かしていた。

 ◇新たに挑戦したいことは?

 「俳優は人間を演じる職業であり、人の心や生き方に向き合っていく仕事」だと話す松雪さん。役柄について「『今、この人はどういう心理状態なのか』とか『この人はこれまでどんな生き方をしてきた人なのか』といったことを深く探究していくことで、自分自身が抱える問題点と役柄が共鳴し合うときもあれば、お互いのポジティブな面で共鳴し合うときもある」といい、「そういう意味では、ほぼ生きている時間のすべてがお芝居に結びついている感じがします」と話す。

 とはいえ、もともと「物作りが大好き」で「俳優を目指す以前は、デザインをやっていて、作り手側に行きたかった」という松雪さん。今後については、「クリエーティブなことにどんどんチャレンジできたらなと思っています。実は今、新しいプロジェクトが進行中で……」と話し、「音楽をもう一回やってみようかな、と思っているんです。ぜひライブもやってみたいですね」と意欲を見せる。さらに「子供と向き合う時間の中でも教わることがたくさんあった」といい、「いつか小説も書いてみたい」という願望も明かした。

 次回は、松雪さんの恋愛傾向やリフレッシュ法、女性が輝き続ける秘訣(ひけつ)などについて聞く。

 <プロフィル>

 まつゆき・やすこ。1972年11月28日生まれ、佐賀県出身。1991年女優デビュー以降、数々のドラマ、映画、CM、舞台など幅広く活動。近作は、舞台「ハムレット」、テレビドラマ「ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~」(2019年)など。2020年3月、“松雪泰子プロデュース企画”を始動。さまざまなコンテンツを楽しめるアートプロジェクトであるウェブサイト「mondoart project official web site」の立ち上げと共に、アーティスト活動を再開している。

(取材・文/渡邊玲子)

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