エッセー「長谷川京子 おいしい記録」を発売した長谷川京子さん 撮影/岡本充男
女優であり、2人の子供の母親でもある長谷川京子さん。今月、7年半にわたって毎月つづったエッセーが書籍として発売された。タイトルは「長谷川京子 おいしい記録」(集英社)。野菜嫌いの子供と繰り広げた名勝負や、手作りギョーザがもたらす母から自分、子供への思い、友人と食べるイカスミパスタの爆笑エピソードなど、食にまつわる何気ない日常の一コマが、飾らない文体でつづられている。長谷川さんに7年半で訪れた変化や当時の思い出、子育てで感じること、年齢を重ねたからこそ考える美しさについて聞いた。(全3回)
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◇「何とかなる!」と突き進む一方で、子育てにはブレーキも
エッセーの連載をスタートしたとき、長谷川さんは4歳と2歳の子を持つ母。現在、子供は小学6年と小学4年にまで成長した。
「子供は自分の合わせ鏡のよう。子供に対して放った言葉が、全て自分に跳ね返ってくるんです。子育てを通して、自分自身の嫌な部分を直視させられることも。そんなとき、ふと我に考える時があります」と語る長谷川さん。
「感情的になって子供を怒っている自分のことを『(自分の)母親みたい』と思う時もあれば、生意気な話し方をする子供に『そんな言葉、使っちゃダメでしょう!』と注意しながらも、『もしかしたら私がその言葉を使っていたのかも』と反省することがあります」と明かす。
自身は厳格な家庭で育ち、母親からは「あなたはダイヤモンド。磨けば磨くほど光り輝く」と、可能性を広げて努力を怠らないようにと言い聞かされてきた。幼い頃から興味があることには、ためらいなく飛び込んでいける性格で、今でも「恐怖さえも越えて突き進みたくなるときがあるんです。基本的には『何とかなる!』と思って生きているところがありますね」と豪快な一面がある。
しかし、子育てには「あんばいが難しい」と日々、葛藤している。
「子供たちの個性を生かしてあげたいし、できれば好きなことだけやらせてあげたいけれど、学校という社会のなかで生活している以上、最低限のルールには従う必要がある。私自身、枠から外れたいのに、外れきれないところがあって、『宿題なんて、やらなくてもいいんじゃない?』と思ってしまうこともあるんですが、そうはいかない。そのあんばいが難しいですね」
◇印象深いのは息子とのちょっぴり切ないエピソード
エッセーは月刊誌「LEE(リー)」(集英社)で2014年1月号から2021年8月号まで連載した。リアルタイムのできごとだった子供とのエピソードのほか、独身時代の思い出もつづられている。
「息子の残したおしるこを自分の朝ごはんにして食べた回も印象深いし、息子が妹の誕生日にサプライズするつもりがうまくいかず泣いてしまったエピソードは、いま読み返しても涙が出てきます。20代で行ったヨーロッパ旅行の思い出をつづった回も、当時の自分の悩みがフラッシュバックしたりすることもあって感慨深いですね。
最近は子供が大きくなってきて、昔ほど毎日ドラマが起こらないんです。正直、エッセーのネタも少なくなってしまって」とジョークを交えて、子供の成長を喜ぶ。
「子供たち2人の世界もあれば、家族4人の世界もあって、そのなかに私だけの世界もある。一人の世界しか見えなかった独身のころに比べて自由は少なくなったけれど、自分にいくつも役割があるのは面白いですよね。7年半で、より広い世界が見えるようになってきました」と充実した表情で語った。
(取材・文/渡邊玲子)
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