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第一線で活躍する著名人の「30歳のころ」から、生きるヒントを探します。今回は俳優の西田尚美さん。アラサー時代の思い出や、30歳をより輝かせるためのアドバイス、11月3日から上演される舞台「夏の砂の上」などについて聞きました。(全3回の2回目、編集・取材・文/NAOMI YUMIYAMA)
◇人生を変えた子供時代の体験 30代で女優の道を決意
「30歳の頃……私はそのころから変わっていない気がします(笑い)。年はとったけど時間が止まっているというか。あの頃から天然だったと思います」
おだやかにそう語る西田さん。今年はNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「カムカムエヴリバディ」でヒロインの母親役を演じるなど、ドラマや映画、舞台で活躍している。その素顔は爽やかで優しいムードの中にしっかりとした強さを感じる女優だ。
西田さんは1970年、広島県生まれ。子供時代のある体験が、その後の生き方に大きな影響を与えたという。
「中学1年のとき母を亡くして、人の死をそこで初めて体験しました。人間は死ぬんだな、限りがあるということを身をもって知りました。だったら、生きてる間は楽しい方がいいと思ったんです。生きているといろんなことがありますけど、つらいときも楽しいことを考えて、自分に正直に素直に生きるのが一番だと思いました」
その後、高校を卒業時に「公務員になってほしい」という家族を説得して上京。「non -no(ノンノ)」(集英社)など女性誌の人気モデルとして活躍し、映像の世界に活躍の場を広げた。演技もまったくわからなかった状態からキャリアを重ね、1999年、沖縄を舞台にした映画「ナビィの恋」でヒロインを演じ、数々の映画賞を受賞する。
「20代後半は人生の岐路というか、迷える時期でした。このまま女優を続けていくのかそれとも違う仕事にいくのか、よく考えていたと思います。30代前半までに『ナビィの恋』や『白い巨塔』などに出演して仕事が面白くなってきたんです。このまま走りたいなって思いました。この仕事をやっていこうと決めたのがあの頃でした」
◇出演作は300本以上 人生を楽しみながら仕事にまい進
自身の性格について尋ねると、「すごくマイペース」と答えた西田さん。30代に入っても幅広い役柄にどんどん挑んで、演技を磨いた。オファーされるとどんな役でも選ばずに演じたという。
「カッコいい役しかやらないとか、きれいな役しか嫌だとか、自分の中で線を引かなかったんです。見る人を良い意味で裏切れるといいなと思ったから。ときどき、何でこの役が私にきたんだろう?と思うときも(笑い)。でもこの役がきたということはご縁なのかもと思って、少し怖いけど、おもしろがって挑戦してきました」
私生活では30代で結婚と出産を経験している。ただ仕事を続ける上では、あまり変化はなかったと話す。
「35歳で結婚しました。家族を持って、無意識の中の安心感というか、守らなきゃいけないという気持ちは働いたかもしれないです。でも自分の中の軸はそれまでと変わらなかったですね。出産したのは38歳で、子供が小さいときは子育ての方に重きを置いてやっていました。けれど、だんだん手が離れてきて、今まで通りに仕事をしています。家族が協力してくれるので、すごくありがたいですし、助けられています」
どんなときも人生を楽しみ、ブレない芯を貫いてキャリアを重ねた西田さん。30歳を前に本格スタートした役者としての出演作は、すでに300本を超えた。そして50代の今、仕事はさらにおもしろくなってきたという。
「役者は表現することが仕事で、若い頃より自由になった気がします。とくに舞台では、稽古(けいこ)場で演出家の方にいろんな指摘をもらいます。自身の発見の連続です。この年で勉強の場があるというのはなんて幸せなんだろうと感じています。ときどき、上手な“ダメ出し”を聞くと、子供の勉強を励ますときに使えるんじゃないかな?と思うこともあって。まねして家で子供に言ったりしています(笑い) 」
<プロフィル> にしだ・なおみ 1970年2月16日、広島県生まれ。モデルとして活躍後、1993年に女優デビュー。主な作品に映画「ひみつの花園」(1997年)、「ナビィの恋」(1999年)、「二重生活」(2016年)、「友罪」(2018年)、「生きてるだけで、愛」(同)、「新聞記者」(2019年)、「凪(なぎ)待ち」(同)、「青葉家のテーブル」(2021年)など。2021年、NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で上白石萌音さんが演じたヒロイン安子の母親役で出演。映画「土を喰らう十二ケ月」が11月11日に公開。
*……「夏の砂の上」▽作:松田正隆▽演出:栗山民也▽出演:田中圭、西田尚美、山田杏奈ほか▽日程:11月3~20日▽場所:世田谷パブリックシアター(東京都世田谷区)▽ツアー公演:兵庫、宮崎、愛知、長野