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吉田美月喜さん=主演映画「カムイのうた」の一場面 (C)シネボイス
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吉田美月喜さん=主演映画「カムイのうた」の一場面 (C)シネボイス

吉田美月喜:アイヌの叙事詩ユーカラ、楽器ムックリに挑戦 差別の中で生きた実在の女性を演じ「未来を担う同世代も見て」  主演映画「カムイのうた」を語る

 俳優の吉田美月喜(よしだ・みづき)さんの主演映画「カムイのうた」が公開中だ。差別の中で生き、アイヌ文化を初めて日本語に訳した知里幸惠さんをモデルに、菅原浩志監督が脚本も手がけた。主人公テルを演じ、劇中でアイヌの叙事詩ユーカラを歌い、楽器ムックリの演奏もした吉田さんに話を聞いた。

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 ◇2カ月の特訓でリアルさを追求

 「アイヌ文化について知らないことが多かった」という吉田さん。「日常のこととして映したい」とリアルさを追求する菅原監督のリクエストに応じ、着物を畳む所作をはじめ、約2カ月の特訓の末、劇中で自らユーカラを歌い、ムックリも演奏した。

 「アイヌ文化には楽譜がありません。歌も楽器も自分の感情を音にする。自由度がとても高く、音程も含めて、これをやれば正解という形がないんです。だから撮影とはいえ、伝えたいことが音に出せるかどうかは、自分の中の引き出し次第。それが一番大変だったかもしれないですね」

 ユーカラは手本を元に練習したが、監修者から「物語や情緒を感じない」と指摘を受けるなど苦戦した。「最終的には『今のが一番よかった』と言ってもらえたものが作品になったのでうれしいです」とにっこり。一方、ムックリは完全にアドリブで演奏した。

 「ムックリは、弁を揺らして口の中で反響させる楽器です。自分の喉を開くとか、舌の形とか、息をどう吹くか、吐くかで音が変わる。どうやったらどんな音が出るか、たくさん試してメモをして練習し、どんどん体になじませていきました。いまでも、こんな音があったんだという発見があって、とても奥が深い楽器です」

 ◇同世代にも見てほしい

 吉田さんが演じたテルは学業優秀にもかかわらず、アイヌというだけで女学校に進学できない。入学できた女子職業学校でも理不尽な差別を受ける。劇中では差別や迫害の様子もはっきりと描かれ、目を背けたくなるような場面もある。

 「私は日本でアイヌの方々がどういう差別や迫害を受けてきたのかも知らなかったので、とてもショックな内容でした。映画を見た同世代の友人も同じ気持ちだったようです。

 当時のアイヌの方、現代のアイヌの血筋の方にも納得してもらえるものでなければいけないと、責任とプレッシャーをとても感じながら演じました。

 映画が公開されるまでずっと緊張していましたが、昨年、北海道で公開されたとき、みなさんが涙を流して見てくださったり、こういった事実を知ることができて良かったと言ってくださったりして、少しホッとしました」

 テルのモデルとなった知里さんは19歳でこの世を去った。吉田さんがテルを演じたのも昨年、19歳のころ。

 「いま、私が死んでしまうことになったら、やり残したことしかありません。知里さんもやりたいことがたくさんあったはず。でもその中で自分の命をかけて、自分の大切なアイヌ文化を守る、残すことに命を捧げた。とても憧れます」

 この作品を「これからの世界を担っていく同世代の人にも見てほしい」と語る。

 「今もアイヌの方への差別が残っているところもありますし、世界的に見てもいろんな争いが起きている。知らない文化や人のことを知ろうとするのは、とても勇気がいる、怖いことだと思います。だから、まず『知ろう』という一歩を踏み出す。その勇気を持とうと、私はこの作品で学びました。そして、それをみなさんに伝えたいです」

 ◇母は自分を“導いてくれる人”

 テルは、アイヌ語研究の第一人者・兼田教授と出会い、その勧めでユーカラを日本語に翻訳することになる。兼田教授はテルを励まし、導いていく人物。吉田さんにとっての兼田教授のような存在をたずねると……。

 「私にとっては、母ですね。母はかっこよくて芯のある女性です。幼いころ一度、モデルになってみたいと言ったら、母に『あなたがそういう人生を歩む人だったら、いつかチャンスが来るから今は勉強しなさい』と言われて泣く泣くあきらめました。でも中学3年のころ、スカウトされてチャンスが来て、中途半端なことは絶対しないという約束でこの仕事を始めました。

 “ライオンは子供を崖から落とす”なんて言いますが、まさにそういう子育てをするんです。中学2年のころ、スキースクールで大げんかをして“置き去り”にされたこともありました(笑い)。当時はとても焦りましたけど、自分で考えて行動して物事を進めなきゃいけないという状況に置かれて、そのときに行動力を学んだ気がします。

 たまに反抗するときもあるんですけど(笑い)、相談できる存在が近くにいるのは、とてもありがたいと思います」

 *……ユーカラの「ラ」は小文字が正式表記

 <プロフィル>

 よしだ・みづき 2003年3月10日生まれ、東京都出身。2017年にスカウトされ、芸能活動を開始。2023年には、主演映画「あつい胸さわぎ」「カムイのうた」が公開。現在、主演連続ドラマ「マイストロベリーフィルム」(MBSほか)が放送中。6月から上演される舞台「デカローグ7『ある告白に関する物語』」で主演を務めることが決定している。

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