1990年代の東京アンダーグラウンドを描いた、WOWOWのハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE(トウキョウ・バイス)」のシーズン2(毎週土曜午後9時放送・配信中)に出演する真矢ミキさん。私生活では今年1月に60歳の誕生日を迎えた。還暦を迎えてますます輝きを増す真矢さんに話を聞いた。(前後編の前編)
◇今の自分は男性も女性も宿っているよう
ショートヘアにキリリとした目元、ハイヒールのパンプスを履いたエレガントなブラックコーデ。真っ白のジャケットを羽織った真矢さんは「ここ2年ぐらい、一回りしたかのように“男”に戻っちゃっているんです」とちゃめっ気たっぷりの表情で語る。
「いろいろ試行錯誤していましたけど、“男”に戻っているというか、自分が心地いいところに着地した感じ。あるがままに生きたいなと思ったら、今はこんなファッションやメークが好きなんです。オフはこのカジュアルバージョンみたいな感じかな」
1981年に宝塚歌劇団に入団。1998年に退団するまで男役として活躍し、花組トップスターを務めた。
「社会に出て恋愛をして仕事をして……という、女性が女性としていろんなものを吸収するタイミングで20年近く“男”をやって、30代半ばで映像の世界へやってきて。当時は遠回りしてしまったと思って、急いで女性をやっていました。そしていま、この年齢になってみると、自分のなかに男性も女性も宿っているような感覚がありますね」
◇こんなに肩の力を抜くことができるんだ
「60歳になる前はすごくイヤでした。なんだか20代が終わるときのように」と明かした真矢さん。
「30代から40代、40代から50代になるときには、心身ともに大人の女性として磨かれていくというか、いらないものはそぎ落としながら……と流れの中で過ごしてきましたが、60代は今までの延長線上じゃないかもしれない、自分はどう生きたいんだろうと考えるときなのかなという気持ちだったんです」
しかし、いざ誕生日を迎えると40代、50代に感じた60代を迎えることへの怖さはなくなったという。
「『60歳のテープを切ると、こんなに肩の力を抜くことができるんだ。これは本気の大人じゃん!』と、とてもラクになりましたね。自分に正直でいいんだという感覚です。強がりでもなく、まだ若いんだとあらがうこともなく。
今までのような恐怖心がなぜないのか。それはそんなに難しいことじゃなくて、“柔らかい覚悟”のようなものが自分に根づいていたということかもしれません。
人に話すまでもないような……これがいいと思ったけどよくなかったとか、あれは自分のエゴだったかなとか、みなさん、いろいろあると思います。私にも、あります。それをひっくるめて今の私なんだという、経験という“柔らかい覚悟”。
あとは、自分のこういうところを改善したいなという課題。課題は自分を育ててくれる素晴らしい感情だと思うので、その課題を楽しみながら、日々、進んでいます。今は、自分が人にどう見えるかとか、人がこういう私を好きだとかいうことではなく、自分がこう生きたいという姿を軽やかに表現していたいですね」
また、「どの世代でも最初の1年はまだビジター。新しい世代の新人です。今はもう一つ上の世代の方々の個性がすてきに見えて仕方がない」と言う。
「60代は一人一人が個性で堂々と立っていられる年齢という気がします。無個性という個性でもいいから、『これまで生きてきたら、自分はこんな服装で、こんな存在として立っていた』という証が見えてきたらいいですね」
*……「TOKYO VICE」は、東京の大学を卒業し、日本の大手新聞社で警察担当記者となったアメリカ人青年ジェイク(アンセル・エルゴートさん)と、ヤクザ絡みの事件を担当する刑事、片桐(渡辺謙さん)を中心にした物語。シーズン2では、ジェイクが自分や身近な人々の命が恐ろしい危機にさらされていることに気づく。真矢さんは片桐の相棒となる警視・長田を演じた。WOWOWで毎週土曜午後9時放送・配信中。シーズン1(全8話)はWOWOWオンデマンドで配信中。