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芥川賞作家の北杜夫さんの小説が原作の映画「ぼくのおじさん」(山下敦弘監督)が全国で公開中だ。映画は、兄夫婦の家に居候する屁理屈ばかりこねている“おじさん”が、お見合いした美女に一目ぼれしハワイまで追いかけていく騒動を、しっかりもののおいの目線で描いている。哲学者で変わり者の“おじさん”を演じる俳優の松田龍平さんと、そのおいっ子・雪男を演じる大西利空さんに話を聞いた。
◇“おじさん”という人物の「インパクトがすごい」
松田さんは、インテリだがいつもぐうたらしている“ダメ人間”で、でも憎めない“おじさん”という役について「本当にダメな印象で、こんなダメなおじさんがいるんだなと」と苦笑いし、「ずっと万年床で、ちゃんと勉強したいと思っている雪男に、自分が読みたいがためにマンガを買わせるという。もうインパクトがすごい。そんな自由なおじさんを、雪男がじっと見ながら観察しているという、すごく面白い本だなと思いました」と脚本を読んだときの感想を明かす。
一方、オーディションで出演が決まった大西さんは、「初めて台本を渡されたとき、パッと見たらせりふの量がすごくて。最後は覚えられたのですが、初めは大丈夫かなと心配になりました(笑い)」と物語よりも先に、せりふの量が心配になったと振り返る。ただ「最後はすごく感動して泣きました」という。
これまでにないキャラクターを演じる松田さんだが、演じるにあたって「どうするかというのを詰めてからやるというよりも、現場で一歩ずつという感じでした」といい、「『こういう“おじさん”はどうだろう?』というのを自分で提示してみたところ、山下監督もそれを面白がってくれて。『じゃあ、もう少しこうしたらどうだろう?』とちょっとずつ作っていきました」と役作りのプロセスを説明する。
続けて、「“おじさん”の周りにいるいろんな人たちにストーリーの中で触れていって作っていく感じ。特に雪男とはずっと一緒にいて、おじさんが屁理屈を言って、それを(雪男が)心の中で全部見抜いているという関係性で、お互いの深さが見えている」とおじさんと雪男の関係を分析する。そして、「(雪男が)心の中で“おじさん”のことを言ってなかったら、“おじさん”はやばい(笑い)」と指摘し、「だから雪男が見抜いて、『“おじさん”は実はこうなんだ』ということを言ってくれているから、まだ……。そこが笑えるところでもある」と楽しそうに話す。
◇「ワオ」というせりふが生まれた理由
松田さん自身、「せりふ回しが独特で、それが面白おかしい雰囲気を醸し出しているのでは」というように “おじさん”の口調は魅力的だ。なかでも「ワオ」という決めぜりふのようなフレーズが印象的だが、「プロデューサーからは『当て書きをしたからワオがついた』というようなことを言われて、『ワオってなんですか』と聞いたら、『龍平くんはいつもああいう感じだから』と(笑い)」とそのせりふが生まれた経緯を明かす。
実際に発声する際には「探り探りやっていた」といい、“おじさん”にとって「ワオ」は「なんか、ごまかしなのかな」とつぶやき、「“おじさん”は自分の世界を自由に生きている人だから、周りから阻害されたときに『ワオ』と言ってごまかして、また自分の世界に戻っていくのでは」と持論を語る。
“おじさん”の行動や言動に心の中でツッコミを入れる役どころの大西さんは「普段使わないような言葉も多かったので、発音が難しくて。そこには力を入れました」とぼやきのアフレコに苦労したという。
2人は初共演だったが、「(撮影に)入る前は(松田さんを)映画やテレビでよく見ていたし、松田さんってどんな人なんだろうと思って緊張していた」と大西さんは明かすも、「休憩時間にゲームとかいろんな話で盛り上がったりして、いい意味で『こんな人だったのか』と知りました。思っていた印象とは全然違いましたけれど、話が合うから安心しました」とほほ笑む。
横で聞いていた松田さんも、「よく話をしていたからなのかな。(2人の雰囲気が)だんだんほぐれてきた」と同意し、「本番ギリギリまでワイワイやって、急にさっと雪男になる。それで本番前に温度が高くなって、妙な気持ちの高揚感というか、そのまま本番に入って温度を保ったまま、“おじさん”を演じられた」と良好な関係性が撮影に好影響を与えたと語る。そして、「そういう入り方や、雪男が子供らしくいてくれたのがよかった」と感謝するも、「ちょっとはしゃぎすぎて怒られたりもしていた(笑い)」と暴露する。
◇泣くことがプレッシャーに!?
雪男から見て、“おじさん”はどう映っているのか。「普通にぱって見たら『なんだこの“おじさん”』って思うんだろうけれど、最後に雪男が“おじさん”を見直したように、本当はいい人なんだなと」とたたえるも、「すごくずるいけどね(笑い)」とちゃめっ気たっぷりに語る。
一方、松田さんは“おじさん”のよさについて、「本当に自由で、こんな人がいてほしいなと思うような人」と表現し、「“おじさん”のよさみたいなものに気付いてない雪男が、日記を書き進めるうちにどんどん筆が進んでしまうように、魅力は映画を見てもらえば分かってもらえるはず」と自信をのぞかせる。
雰囲気のよさが伝わる2人だが、クランクアップの日に泣く大西さんを松田さんがハグしたという。「みんなめっちゃ仲よくやってきたのに、クランクアップしちゃうと思ったら悲しくなって、それで泣いちゃったのかな」と大西さんが松田さんを見やると、「(大西さんが)みんなから『最後の日は特別だから泣く』と言われまくっていたので、逆に緊張していたから、無理するなと」と声をかけたことを松田さんは明かす。
大西さんはその言葉に照れながらうなずき、「みんなから『最後は泣けよ』みたいな感じでいわれていてプレッシャーだったけれど、本当に楽しい撮影だったから(プレッシャーに)関係なく泣けたんです。初めての海外(2週間のハワイロケ)だったので余計に楽しかったです」と充実感をにじませると、松田さんも「最高でした」と優しくほほ笑みかける。
今作の見どころを、松田さんは「“おじさん”と雪男の関係性」、大西さんは「“おじさん” のことを観察している雪男」だという。雪男は作文の宿題で“おじさん”について書き、担任のみのり先生(戸田恵梨香さん)から「“おじさん”のこともっと詳しく書いて」といわれ観察日記を書き始めるのが、「普通だったら、詳しく書いてと言われたら『こんなおじさんなんです』ということを書くと思うんですけど、雪男は観察日記を作っちゃう」と大西さんは驚き、「ページ数も書いているし、観察力がすごい」と雪男を自身が演じた役ながら褒める。
松田さんは「“おじさん”の言うことが結構、あとあとグッとくるというか。『思索の旅に出かけよう』とよく言うのですが、要は散歩しようということ(笑い)」と切り出し、「なんでもない散歩が冒険になるような、“おじさん”と一緒に行けばちょっとした冒険になりそうな気持ちになるから、雪男はついてくる」と説明。そして、「“おじさん”にとっては冒険ではないんだろうけれど、なんでもない日常が冒険になる子供の可能性というか、それが関係性としてすごく心地いいなと思います」と語り、「なんだかんだいっても、雪男はおじさんが好きなんでしょう?」と大西さんに話を振ると、思わず大西さんは「うん」と答え、松田さんは「認めちゃったね(笑い)」と2人で笑い合った。映画は全国で公開中。
<松田龍平さんのプロフィル>
1983年5月9日生まれ、東京都出身。99年に映画「御法度」で俳優デビュー。同作で、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞ほか多くの新人賞を受賞。「青い春」(2002年)で主演を務めて以降、数多くの作品で存在感を示している。主な出演作に「探偵はBARにいる」シリーズ、「舟を編む」(13年)、「ジヌよさらば ~かむろば村へ~」(15年)、「モヒカン故郷に帰る」「殿、利息でござる!」(ともに16年)など。
<大西利空さんのプロフィル>
2006年5月16日生まれ、東京都出身。幼少期から子役として活躍し、テレビドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(フジテレビ系)で初のレギュラー出演を果たす。以降、さまざまな作品に出演。主な出演映画に「ピカ☆★☆ンチ LIFE IS HARD たぶんHAPPY」(14年)、「悼む人」(15年)、「金メダル男」(16年)など。
(取材・文・撮影:遠藤政樹)