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女優の坂井真紀さんが出演した映画「駅までの道をおしえて」(橋本直樹監督)が公開中だ。今作は、いつも一緒だった愛犬の帰りを待つ8歳の少女サヤカと、先立った息子との再会を願う老人の心温まるヒューマン作。坂井さんは、新津ちせちゃんが演じるサヤカの母を演じている。自身も1児の母である坂井さんに、役と自身の共通点や、女優という仕事の原動力、さらに自身の未来像などを聞いた。
◇女優の原動力は「人に元気になってほしい」という思い
もともと女優に憧れてこの世界に入ったという坂井さん。知人からモデルの仕事を紹介され、CM出演などを足掛かりに1992年に女優デビューした。1996年には映画「ユーリ」でヒロインを演じた。以来、女優として映画やドラマ、舞台で活躍している。
20代のころは、自分が出演するCMの楽曲を歌ったり、エッセーを書いたりした。どちらも「やってみませんかと勧められて、せっかくだから、みたいな感じでやらせていただいたのですが、それはやっぱり、私が書いたものや、私の歌に触れた人たちに、元気になってほしいという気持ちがあったから」だという。
そういった思いは、女優として、「作品によって、皆さんに温かさだったり、元気だったり、笑顔だったりをあげられたらいいな」という思いと重なる。坂井さんに、「女優という仕事を続けられる原動力は、他人を幸せにすることへの喜びですか?」と尋ねると、「そうなったらいいなと思います」と答えた。
ただ、そのすぐあとにこう続ける。「例えば、農家の方が作ってくれたお米で私たちが元気になれているように、働いている人はみんな、社会のために役立つことをしていると思います。人はたった一人では生きていけないですし、人と関わって、人のために生きている。私の場合はたまたまそれが(映画やドラマという)作品という目に見えるものになっていますが、誰かに喜んでもらえるということは、生きていく上での喜びになると思います」と語る。
◇作品選びに登場シーンの多い少ないは「関係ない」
今作で、坂井さんの出番は少ない。だが、坂井さんは「必要とされることがとてもうれしいのです。監督の思いや、台本の内容など、一つでも魅力があれば、(出番の)多い、少ないは全く関係ないです」と言い切る。
坂井さんにとって、「台本に書かれていないことを想像することが、すごく楽しい作業」だという。今作では「普通の家庭に育って、私立の女子高に行って、今は自分でもお洋服を作る仕事をしている、きちんと自分を持っている女性」で、「子供のことをすごく信頼していて、心配なことがあっても距離をとって、待っていたり、見守っていたりすることができているすてきなお母さん」をイメージしたという。
◇新津ちせちゃんは「えらかった」
坂井さん自身も8歳の娘の母だ。「私は心配性で、まだ、母親8年目の、新米といえば新米なので、新しいこととぶつかって、そのつど悩み、反省し、という日々」を送っているという。そんな中でも、演じるサヤカの母のように「待つことは大事だと思いますし、失敗させることを恐れちゃいけない」ことは理解しているつもりだ。しかし、「ついつい、あれ、忘れてない?とか、あれ持った?とか、ほらほら早くしないと、と言ってしまいます」と苦笑交じりに明かす。
そんな坂井さんによると、撮影現場でのサヤカ役のちせちゃんは、「本当にしっかりしていました。橋本監督はとても粘られる監督で、ちせちゃんは何回か繰り返すことも多かったのですが、それを負けずにやっていました。えらかったです。私たち大人は、そんなちせちゃんを見守りつつ、私たちこそ失敗しないようにと、心しながら演じていました(笑い)」と振り返る。
完成した映画を見て、「命というものについてすごく考えさせられ」、同時に、サヤカが一生懸命走っている風景が、「とてもキラキラしていて、ああ、生きているなあと節々に感じた」という。そして「(原作者の)伊集院(静)さんが、『私たちの心の中で忘れないことがずっと生きていること』とコメントを寄せられていましたが、本当にそうだと思います。忘れなかったら、ずっとここ(胸の中)にいるのだと感じました」と、自分の胸に手を当てながら、しみじみと語る。
◇今ある現実の中にいいことは探せる
2020年に50歳になる。「早いですよね。わあ、びっくり(笑い)」と朗らかにいう坂井さんだが、とてもきれいでみずみずしい。そう指摘すると「そんなことないですよ。今、きれいなのは、メークさんやスタイリストさん、皆さんに頑張ってもらっているからです」と謙遜(けんそん)し、「家の中の姿、お見せしたいくらいです。娘の友達のお母さんたちと会うと、皆さんきれいにされていて、私が一番さえないです(笑い)」と打ち明ける。そして、「仕事のときは、皆さんに喜んでいただきたいと思うから、頑張って少しでもきれいでいようという気持ちが働くのかもしれません」と話す。
そんな坂井さんでも、若くないと感じることはあるといい、そんなときは「認めることですね。その上で、それをいいことだと肯定したり、いい意味であきらめたり。今ある現実の中に、ちゃんと、いいことって探せるから。そうやって自分を、大丈夫だ、大丈夫だと励ましている」のだという。
ちなみに、女優業、家事、子育てと多忙な毎日を送る中、水分補給と肌の保湿は怠らないよう心掛けている。「面倒くさがり屋なんですけど、シートマスクのフェースパックは、寝る前や移動時間にできるので、それで肌に潤いを与えるようにしている」という。また、「何でもおいしく食べることが健康につながると思っているので、なんでもモリモリ食べます(笑い)」と教えてくれた。
◇人に優しさや笑顔を与えていけるおばあちゃんに
20、30、40代と、その年代ごとに悩みはあったという坂井さん。「そこで超えてきたものはありますし、その上での50代。割と年を取る覚悟はできているという感じはしています」と前を向く。その上で「今までは、自分のことをすごく考えて生きてきましたし、多くの方々に助けてもらいました。ですから今度は、今までの恩返しを、作品を通してでもそうですし、世の中にある、他の何かででもそうですし、人のためになることができないかなと思っているところ」だという。そういった考え方は、自身の未来像にもつながる。
「ワンシーンでも呼んでいただけて、それが作品のためになるのだったら、喜んでお引き受けします。自分が経験したことで、人に優しさや笑顔を与えていけるおばあちゃんになれたらいいですね」と穏やかな笑顔で語った。
映画は、伊集院静さんの同名短編小説が原作。いつも一緒だった愛犬ルーの帰りを待つ8歳の少女サヤカは、あるとき、喫茶店のマスター、フセ老人と出会う。フセ老人は、先立った息子との再会を願っていた。サヤカとフセ老人の間に、世代を超えた友情が生まれ、育っていく……というストーリー。サヤカを、米津玄師さんがプロデュースした「パプリカ」を歌うユニットFoorinの最年少メンバーのちせちゃん、フセ老人を笈田ヨシさんが演じる。サヤカの父に滝藤賢一さん、母に坂井さんが扮(ふん)するほか、マキタスポーツさん、羽田美智子さん、塩見三省さん、市毛良枝さん、余貴美子さん、柄本明さんが出演している。また、10年後のサヤカのモノローグを、有村架純さんが担当している。
<プロフィル>
さかい・まき。1970年5月17日生まれ、東京都出身。1992年に女優デビュー。1996年に「ユーリ」で映画デビュー。最近の主な出演映画に「KANO~1931海の向こうの甲子園~」(2014年)、「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」(2016年)、「友罪」(2018年)、「惡の華」(2019年)など。待機作に「108~海馬五郎の復讐と冒険~」(10月25日公開)、「ブラック校則」(11月1日公開)、「はるヲうるひと」(2020年公開予定)がある。12月には舞台「月刊『根本宗子』第17号『今、出来る、精一杯。』」の公演が控える。