映画「たしかにあった幻」(河瀨直美監督、公開中)に出演している俳優の尾野真千子さん。移植を題材にした今作への思い、キャリアを重ねて大事にしていることなどを聞いた。
◇命の重さを扱う難しい作品 完成した今でも「答えは出せない」
映画は「愛のかたち」と「命のつながり」を題材に、日本の失踪者と心臓移植の現実を重ねてオリジナル脚本で描いた人間ドラマ。尾野さんは最愛の息子を失い、一周忌を迎えた今も罪悪感に苛(さいな)まれるめぐみを演じる。
台本を読んだ最初の感想は「難しい」だったという。
「移植のような生死にかかわる話は、人それぞれの考え方や受け止め方が違うので、何が正解かも分からないし、自分だったらって考えても答えが出ませんでした。作品に出るときは、何かしら正解があるような気がするんですが、今回はそれが見つからず、とても難しかったです」
撮影前からたくさん考えたが、撮り終わっても正解は出ず、余計に悩んだ。
「撮影に入る前に病院に行って、ドナーを待っている子どもたちに会って話を聞いたら、余計にいろいろ考えましたし、その子たちのことを思ったら、『こうあるべきなんだろうな』とか、『こうした方がいいんだろうな』と考えましたが、私にはまだ答えは出せませんね」
演じためぐみはドナーが見つかる前に息子を亡くし、現在はドナーを待つ親や病院の職員に弁当を届けている。
「つらい記憶が残っている病院に行って、自分と同じような状況の人を助けようとするなんて、本当に強くてすごい人。めぐみ役のモデルになった方にもお会いしましたが、たくさん勇気をいただきましたし、自分には何ができるのかということなども考えさせられました」
重いテーマの今作について「『考えるきっかけに』とか、きれいごとは言いたくない」と話す。
「どんな人が見ても、“命の重さ”を再確認できると思います。自分自身や愛している人たちの笑顔、周りの人たちの存在がどれだけ大切かなどを感じていただきたいです」
◇キャリアを重ねて大切にしているのは「楽しいことをする」
尾野さんは14歳のとき、今作の河瀨監督にスカウトされ、1997年公開の映画「萌の朱雀」でスクリーンデビューした。30年近くキャリアを重ねる中で大事にしているのは「楽しいことをする」。
「仕事を選ぶときも楽しいものを選ぶし、楽しく仕事をする。楽しくしていると幸せでしょう? だから、なるべく『嫌だな』と思わないように、日々を過ごしています」
うまくいかなくて落ち込んだり、楽しくないと思うこともあるが、「寝れば治る。次の日には持ち越さない」と断言。
「朝日が昇ったら、また新しい1日が始まりますからね。またやり直せばいいんです。くよくよしてもしょうがないですからね。でも、愚痴は吐きますよ。主人とかマネジャーとか、信頼している相手にさんざん愚痴を吐いた後に寝ます」
2021年の結婚を機に、現在は東京と沖縄の2拠点で生活している。
「2拠点生活には慣れました。心の支えになってくれる人たちがいるので、より今が楽しいですし、生きている感じがします」
「東京にいるときは仕事のことしか考えないけど、逆に沖縄にいるときは全く考えない」ときっぱり。沖縄で何をしているときが楽しいのかを尋ねると、「主人といるときかな」と幸せそうな笑顔で教えてくれた。
<プロフィル>
おの・まちこ 1981年11月4日生まれ、奈良県出身。1997年、中学3年生の時に河瀨直美監督作「萌の朱雀」で主演デビューし、第10回シンガポール国際映画祭最優秀女優賞を受賞。2007年、再び河瀨監督とタッグを組んだ「殯の森」は第60回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリを受賞した。2011年、NHK連続テレビ小説「カーネーション」でヒロインを務める。主な出演作に映画「そして父になる」(2013年)、「茜色に焼かれる」(2021年)、「サバカン SABAKAN」(2022年)、「ハケンアニメ』(2022年)、Netflixドラマ「阿修羅のごとく」(2025年)などがある。