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注目映画紹介:「チョコレートドーナツ」70年代に米国で実際に起きた男性3人の家族の物語

 全米各地の映画祭で観客賞を総ナメにした話題作「チョコレートドーナツ」が公開中だ。1970年代に実際に起きた出来事を基に、育児放棄されたダウン症の男児とゲイのカップルの深い愛情を描き出した。主演は舞台「キャバレー」でトニー賞を受賞、「スパイ・キッズ」3部作(2001~03年)などに出演したアラン・カミングさんが世間の偏見に立ち向かうまっすぐな性格の主人公を熱演している。「17歳のカルテ」(1999年)などに出演したトラビス・ファインさんの監督作。

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 1979年、米カリフォルニア州。ルディ(カミングさん)はシンガーになる夢を抱きながら、ショーバーでダンサーとして日銭を稼いでいた。ステージに立ったある夜、客のポール(ギャレット・ディラハントさん)と出会う。弁護士のポールはゲイであることを隠して生きてきたが、2人はたちまち恋におちる。ルディの住んでいるアパートの隣室には、ダウン症のマルコ(アイザック・レイバさん)と母親が住んでいたが、母親は息子を放って夜遊びを繰り返していた。マルコをかわいそうに思ったルディはポールに相談するも、そっけない返事で期待はずれ。さらにマルコの母親が薬物所持で逮捕され、マルコは施設に送られてしまう。ルディはポールに怒りをぶつけながら、自分の人生を打ち明ける。その帰り道、施設を抜け出して一人で歩いているマルコを見つけたルディは、マルコを引き取って3人で暮らすことを提案する……という展開。

 世界の片隅で孤独に生きてきた3人。求め合う愛の形は、血縁や性別、あらゆるものを飛び越えた新たな“家族”だった。前半は3人のつながりが深まっていくさまを見守るように描き、見ているだけで優しい気持ちになる。後半は世間の差別や偏見と闘う姿を現実的に映し出し、胸がえぐられる思いがする。ルディは、ネグレクトされている子どもを救うことで、家族を持ち、子どもを学校に行かせるといった普通の幸せを、つかの間だが得ることができた。当たり前の幸せが手に入らない人々の視点で見る日常は、なんてささやかで輝いているのだろう。正義感あふれるルディのキャラクターが魅力的で、演じるカミングさんの歌唱も胸を打つ。世間体を気にしていたポールがグイグイ引っ張られていく姿が小気味いい。虐待児童の保護の難しさや偏見などの社会的な問題が多く含まれている作品だが、ここで描かれているのは一部の人間の問題ではけっしてない。自分の居場所を得たい、幸せになりたいという万人が渇望することを描いているのだ。他者を思いやる強さと優しさにあふれる一作。シネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/フリーライター)

 <プロフィル>

 キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。

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