「二重生活」のワンシーン (C)2015「二重生活」フィルムパートナーズ
門脇麦さんが単独初主演をした「二重生活」(岸善幸監督)が25日から公開される。直木賞作家・小池真理子さんの同名小説が原作で、フランスのアーティストであるソフィ・カルさんの著書「本当の話」にある“哲学的尾行”をモチーフに、他人を尾行する女子学生の心の動きを繊細に見せていく。
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大学院で哲学を学ぶ珠(門脇さん)は、ゲームデザイナーの卓也(菅田将暉さん)と同居している。担当教授(リリー・フランキーさん)に修士論文の題材として“哲学的尾行(理由のない尾行)”を薦められた珠は、街で偶然見かけた向かいの豪邸に住む石坂(長谷川博己さん)を尾行し始める。それは、対象者に接触しないことをルールに、生活の記録をつけながら、人間とは何かを考察するというものだった。尾行途中で石坂の不倫現場を目撃してしまった珠は、のぞき見ることにのめり込んでいく……という展開。
大学院生の珠は、同居中の恋人との仲もアツアツという感じではなく、互いに背中合わせの机でそれぞれのことをしており、少し渇いている。珠は、物事を俯瞰(ふかん)で見るような目つきをしている。そんな彼女にうってつけの課題を教授が与える。他人を尾行しながら、人間について考察すること。珠の視点を通して、尾行対象者である男の顔が映し出される。編集者としての顔。よき家庭人としての顔。そして、不倫する男の顔。誰もがそうだが、一人の人間にはいろいろな顔がある。珠は尾行をするうちに胸の高鳴りを覚えていく。男と男の妻と愛人の修羅場をのぞいてからは、尾行の意味合いに変化が生まれる。珠は、対象者ではなく、妻の後をつけてしまうのだ。このあたりから、珠は一体何を見ていくのだろうかと、こちらの好奇心も刺激される。
この映画は、たくさんの視線が交差する。珠は石坂夫婦を見る。珠の恋人の卓也は、ベッドで眠る珠を見る。珠と卓也はアパートの管理人のおばさんと監視カメラに見られている。珠の教授も何かを見ている。そして、観客も珠を見ている……。互いの視線が合わずに、交差すればするほど、心の空虚さ、寂しさが浮かび上がる。珠が、他人を見ることでどう変わるのか。彼女の表情の変化にも注目していただきたい。登場人物の心理を巧みに表現した岩代太郎さんの音楽がとても心地いい。25日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今月公開作では「裸足の季節」(シネスイッチ銀座ほか)がイチオシです。
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