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「ステージ」に情熱を注ぐ俳優に舞台の魅力を聞く。第11回は井之脇海さんに聞きました。(編集・取材・文/NAOMI YUMIYAMA)
ドラマや映画で活躍する俳優の井之脇さんが、5月4日からPARCO劇場で上演される「エレファント・ソング」で、舞台初主演を果たす。カナダの作家ニコラス・ビヨンさんによる心理劇で、2014年にカナダの映画監督兼俳優、グザヴィエ・ドランさんが主人公マイケルを演じた映画版も話題を呼んだ。
「舞台が決まってから改めて映画を観たら、やっぱりグザヴィエ・ドランはすごいなと……。僕も彼に負けないマイケルにしたいと刺激をもらいました。映画版は悲しい話ではあるんですけれど、希望もあるし、結末も美しい。舞台では人間の嫌なところも描かれるので、そのあたりもしっかりと表現したいです」
突然失踪した医師の謎を追う病院長と、彼を翻弄(ほんろう)する患者のマイケル。ある目的を持つマイケルが巧妙に仕掛ける罠(わな)に、マイケルの本性を知る看護師も加わって、物語は衝撃的なラストへと突き進む。
悲しみと狂気をまとうマイケルを演じるにあたり、ドランさんは「マイケルは僕自身だ」と語り、台本を読んだ井之脇さんも同じ気持ちを抱いた。
「この役はほかの人にやらせたくないって、初めて思ったんです。マイケルが医師を手玉にとる行動の奥にある、愛されたいという欲求や悲しみを、26歳の僕なら一緒に背負ってあげられるんじゃないかと。コロナ禍で、僕自身も友達と会えなくなったり、仕事もストップしたりして、それまであたりまえだった人とのつながりが変わってしまった。愛について考えるきっかけをくれる作品になると思います」
緊迫した会話劇で出演者は3人。医師のグリーンバーグは寺脇康文さん、看護師のミス・ピーターソンはほりすみこさんが演じる。
「稽古(けいこ)場はすごくいい雰囲気。演じながら先がどう転ぶからわからないヒリヒリした空気を感じるので、見る方もマイケルに翻弄させられるような舞台を体感してもらえたら」
◇コロナ禍で生活は「朝活」に 「誰もができることを誰よりもやる」がモットー
ドラマ「義母と娘のブルース」「俺の家の話」や、主演映画「ミュジコフィリア」など、映像を中心に存在感を発揮する一方で、舞台の魅力に目覚めたのは3年前のことだったという。
「もともと映画が好きでお芝居を始めたのですが、だんだんお芝居そのものを追求したくなってきて。そんな中、3年前に『CITY』という舞台に久しぶりに出演し、お客さんと空間を共有して作品を届けることに面白さを感じたんですよね。共演した柳楽優弥さんも公演ごとに細かいところを変えるので、それに合わせて変化するのが楽しかった」
9歳で役者デビューしてから17年が過ぎたが、役者としては不器用な方だと自身を分析する。
「テクニックが優れていたり、台本を読んですぐにポンとできる人もいますけど、僕はそういうタイプじゃないんです。だから、誰もができることを誰よりもやる。テーマはその役の人生をちゃんと背負うことです。
たとえば僕の自伝を誰かが演じてくれるとしたら、2時間の作品では描かれない26年間の人生も想像して演じてほしい。そんな当たり前のことを毎回コツコツやってきて、気づいたら26歳になっていました(笑い)」
綿密な役作りでは、その人物が抱える弱さや葛藤も丁寧にすくい取っている。
「大河ドラマの『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』で、坂井義則さんという聖火ランナーを演じました。彼はメディアでほとんど悩みを語らなかったんですよね。でもNHKの方がくれた資料の中に一つだけ、ポロッと“不安にかられていた”という言葉を見つけて、そこから想像を膨らませて役作りをしました。弱みを隠そうと葛藤しているところに一番人間臭さを感じるんです」
現在は「エレファント・ソング」の開幕を控えて、連日稽古の日々。舞台以外の息抜きを尋ねた。
「最近、朝活を始めたんですよ。7時に起きて、夜は10時ぐらいに寝たり。だから好きなお酒もあまり飲めなくなりました(笑い)。朝はいつもオートミールに豆乳とチョコレート味のプロテインを入れて、冷凍のベリーとバナナを入れて食べています。食事の後は、ベランダでゆっくり台本を読む。コロナ禍は生活を見直すきっかけになりました」
爽やかで自然体、言葉一つ一つに誠実な人柄がにじむ井之脇さんの人生一度の「初主演舞台」を目撃したい。
<井之脇さんに一問一答>
――食べると元気になるものは。
オートミール。栄養価も高いので朝ごはんに食べています。あと登山が好きなので、山登りで使う調理器具でうどんや目玉焼きを作って楽しんでいます。
――最近のお気に入りグッズは。
「エレファント・ソング」の舞台でマイケルが愛用する「アンソニー」という象のぬいぐるみ。5種類ぐらいあって、気分によって使い分けています。稽古の空き時間も触っていますね。
――体力作りのためにしていることは。
歩くこと。稽古場から家まで1時間20分ぐらい、その日の稽古を振り返りながら歩く。
――今後、演じてみたい役は。
ある役の人生を、青年期から壮年期までとか、一つの作品で演じてみたいです。
<プロフィル>
いのわき・かい 1995年11月24日生まれ。神奈川県出身。2008年、映画「トウキョウソナタ」で第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第23回高崎映画祭最優秀新人俳優賞を受賞。2018年、初めて監督を手掛け、脚本・主演も務めた映画「3Words 言葉のいらない愛」が第68回カンヌ映画祭ショートフィルムコーナー部門で入賞。近年は、映画「ミュジコフィリア」「ONODA 一万夜を越えて」「猫は逃げた」「とんび」などに出演。放送中のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」にも出演予定。
*……「エレファント・ソング」▽作:ニコラス・ビヨン▽演出:宮田慶子▽出演:井之脇海、寺脇康文、ほりすみこ▽公演日程:5月4~22日▽会場:PARCO劇場(東京都渋谷区)。愛知、大阪公演あり。▽公式サイト:https://stage.parco.jp/program/elephant