法師乃湯。カランなど無機質なものが一切ない。光が差し込む昼間もいいが灯(あか)りのともる夜も幻想的
群馬県のみなかみ町は18の温泉地からなっており、どの温泉も名湯ぞろいだ。中でも「法師温泉 長寿館」の「法師乃湯」は、希少な「足元湧出(あしもとゆうしゅつ)」という、湧き出る源泉の上に浴槽を作ることで極めて鮮度の高い温泉を楽しめる方法を採っている。国鉄時代のフルムーンポスターの舞台になったことでも知られており、当時目にした人も多いはずだ。
建てられてから優に1世紀以上経ち、鹿鳴館をほうふつさせる瀟洒(しょうしゃ)な木造建築。国の登録有形文化財で、まるで明治時代のまま時が止まったかのような趣のある美しい空間になっている。混浴かつ湯浴(あ)み着などでの入浴は厳禁のため、日帰り入浴は女性にハードルが高いが、宿泊ならば女性専用時間がある。
年数回は女性のみが宿泊できる日を設けており、その日ならば、存分に法師乃湯を楽しめるのでおすすめだ。
建物こそ明治時代のものだが、この湯の存在自体は元禄時代あたりから確認されていた。木枠で囲まれた浴槽の床には黒い玉石が敷き詰められ、その隙間からぽこっぽこっと生まれたてのピュアな湯が湧いてくる。
余分な角質や皮脂を洗い流し、かつ肌に潤いを補う効果が期待できるこの湯は、皮膚乾燥症の緩和や切り傷などの回復をサポートする力があると考えられている美肌温泉だ。保温力も期待でき、冷え性にもいい。
ほかに大浴場が二つあり、一つは同様に足元湧出の内風呂、一つは庭園がのぞめる野天風呂。ともにシャワーが整備され、男女時間交代制で入浴できる。
群馬県産の食材・調味料・水と素材にこだわった会席料理は、煮込み麺「おっ切り込み」など郷土料理も組み込まれている。それらをさらにおいしくする群馬の地酒もそろえており、飲みくらべセットなど、少しずつ種類をたくさん楽しめる工夫があるのもいい。
客室は和室を基調としており、国の登録有形文化財に宿泊したいなら本館・別館、離れで広くゆったり過ごしたいなら法隆殿・薫山荘(くんざんそう)と自分のスタイルと好みで客室が選べる。
<プロフィル>
朝香。モデル・美肌温泉家。慶応大卒。温泉ソムリエアンバサダーなど数々の温泉資格を持ち、日本温泉気候物理医学会など多数の学会に所属。美容効果が期待できる温泉やその効能をより引き出す入浴法を広めようと日々活動している。自治体の観光PRの監修・アドバイザーなども務める。